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2006年7月27日 (木)

花咲けるやまとなでしこ絵巻

『男装の麗人』の第二の人生 とりかへばや物語考(1)

 ドレスを着たのは初恋の人フェルゼンのために一度だけ。オスカルは軍服に身を包んだまま、その生涯を終えた。アンドレと結ばれ、革命後も生きていたなら、オスカルは男装を解き、女性としての人生を送っただろうか?

 「とりかへばや物語」は、「源氏物語」に影響を受けて雨後の筍のように生まれた後期王朝物語の中で、男女が入れ替わるという発想がユニークな作品だ。その女主人公は、初め「男装の麗人」として生きながら、後半は女として第二の人生を全うする。

 平安時代、権大納言で大将を兼務する貴族がいた。彼には妻が二人いて、東の対に住む夫人からは男児が、西の対に住む夫人からは女児が生まれた。

 母親は違うが、二人の顔はそっくり。男児は人見知りがひどく、絵を描いたり、人形遊びをしたりなよなよしている。かぐや姫もかくや、というほどの美“少女”ぶりであった。一方の女児は外を走り回って、蹴鞠や小弓で遊び、音楽や漢詩の才能もあり、まるで光源氏の再来のような活躍を見せる。こちらはりりしい美“少年”といったところ。「権大納言家の若君はすばらしい」という噂が広がり、天皇からも元服させよとひっきりなしに言ってくる。

 権大納言は二人を入れ替えることにした。女主人公は男として元服し、官位を給わり、侍従から大将へと順調に出世していく。一方、男主人公は女として裳着を済ませ、尚侍(ないしのかみ)として宮中に仕える。

 ここに宰相中将という人物が登場する。かねてから尚侍(男主人公)に思いを寄せていた中将は、同僚の女主人公と二人きりになったとき「君の妹(男主人公のこと)さんにボクの気持ちを伝えてくれないか」と懇願する。

 そもそも同僚(女主人公)は、中将が思いを寄せる尚侍に瓜二つ。盛夏のことでしどけない姿の同僚を見ている間に、中将は理性が吹っ飛び、力ずくで抱き寄せてしまう。と、若い頃からよきライバルとして互いに競い合った同僚が、実は女だった!あまりのことに驚く中将。女主人公は正体をバラされては困るので、なし崩し的に中将と関係を持つようになる。そして女主人公は妊娠してしまい、出産のために中将をたよって姿を隠す。

 男社会で生きてきた女主人公はうじうじとしたところがなく、理知的でサバサバした性格である。悲しいときには素直に泣き、うれしいときには「あっはっは」と豪快に笑う。当時の平安時代の女性とは違った女主人公の美質に中将はひかれる。

 しかし、出産後、女主人公の方は面白くない日々を送っていた。持ち前の才気で、宮中で有能な官吏として重用されていたあの頃。社交家で闊達だったあの頃。男のころの自分を思い出すにつけ、家で男を待つだけの女、しかも自分は愛人に過ぎないという立場にイヤ気が差す。調子のいい軽薄な中将にも愛想をつかす。女主人公の目は冷徹だ。やむを得ず関係を結んだまでで、中将に心まで捧げているわけではない。「男社会で栄達していたこの私が、このままでいいはずがない!」

 女装をやめ、姿を隠した姉を探していた男主人公と再会した女主人公は、子供を捨てて出奔する。男主人公と入れ替わり、今度は尚侍として宮中に戻った。美貌の尚侍に目を留めた天皇は、数多の女御の中でも女主人公だけを愛するようになる。女主人公はめでたく皇子を産み、ついには天皇の皇后・国母という女性最高の地位を手に入れる。

 「アンドレ…わたしは王妃になりそこなったぞ」

 ルイ・ジョゼフ王太子は、オスカルに幼い恋を捧げていた。もしルイ・ジョゼフが夭折せずに王位についていたら、オスカルがフランス王妃になった可能性もなきにしもあらず?ありえないこととは言え、オスカルに王妃への可能性が示唆されていることは興味深い。王妃か后か、女性最高の地位じゃなきゃ女に戻る意味がない!とも読み取れる。「とりかへばや物語」の女主人公とオスカル、男社会で生き抜いた二人にとって、普通の女として市井に埋没することはハナから頭になかったのだ。

 「とりかへばや」の作者は女性ではないか、という説が有力である。「女だって男の仕事くらいこなせるのよ!」という女性作者の憤りであり、男性全体への失望なのかもしれない。

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/07/27 10:00:00 花咲けるやまとなでしこ絵巻 | | トラックバック (0)

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