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2006年8月24日 (木)

花咲けるやまとなでしこ絵巻

平安時代のジャルジェ将軍 とりかへばや物語考(2)

 今回は「とりかへばや物語」を、育児パパの奮闘の物語として読んでみよう。物語のタイトルも、男勝りな姫君と女っぽい若君を父が「取り替えたい!(とりかへばや)」と思ったことによる。

 平安時代初期、育児の主導権は母親にあった。母方の祖母・祖父など母親の一族と乳母・乳兄弟とが子供を風にも当てぬように養い育てる。結婚相手を選ぶ際にも母親は大きな影響力を持つ。

しかし「とりかへばや物語」は母の影が薄い。二人の母親は断片的にしか語られない。たまに発言するかと思えば、やけに大雑把だったり、頼りなかったり。

物語が成立したとされる平安後期~鎌倉初期は母系社会が崩壊しつつあり、母方の力が弱くなった時代である。「とりかへばや」で母親の影が薄いのは、父の時代への転換期であったことも影響しているかもしれない。

さて、男主人公と女主人公の父親は、権中納言で近衛大将を兼ねていた(後に出世して大臣になる)。近衛府とは、帝をお護りする部署のことである。戦乱のない太平の世には形式的なものになっていたが、それでも近衛府の長官であるから、彼は一応武官=軍人ということになる。ここで、ある人物を思い浮かべる読者もいるかもしれない。そう、代々王家に仕える由緒正しい軍人の家柄、ジャルジェ家の長で、オスカルの父であるジャルジェ将軍のことを。

「王家をお守りし 軍を指揮する 将軍の家に 女などはいらぬわ!」

「ベルばら」におけるジャルジェ将軍の役割を見てみよう。物語の冒頭からジャルジェ将軍は登場し、オスカル誕生の瞬間、その運命を決定づける。剣の稽古をし、政治的な相談もする。近衛隊から衛兵隊に転属を言い出したオスカルに一人気を揉み、突然ジェローデルとの結婚話をすすめる。一方、母親はデュ・バリー夫人騒動の場面になってようやく登場し、その後もあくまでも控えめにオスカルを見守り続ける。オスカルの養育に主導権を持っていたのは、父親のジャルジェ将軍なのだ。

一方の平安のジャルジェ将軍は、オスカルの父と比べるとずいぶん気弱なパパのようだ。泣き声がたくましかったという理由で、父の一存で男子として育てられたオスカルに対し、「とりかへばや物語」の女主人公は、自らの意志で男として生きることを選んでいる。パパは「ああ、取り替えたい(とりかへばや)」というボヤくだけで、女主人公と男主人公に「もっと女らしく!」「男らしく!」などと説教する場面もない。子の性格を変えようとするどころか、「ええい、ままよ」とばかりに男女逆転の元服・裳着の支度をする。半ばヤケクソだったのか、あきらめていたのか。あるいは鷹揚というか。取り替えれば取り替えたで、露見しないかオロオロ心配する。

そんなパパ・権中納言の教育方針で功を奏したのは、二人を仲良し兄弟(妹)にする作戦だった。当時、母親が違う異母兄弟はあまり仲がよくなかった。同じ屋根の下で育つわけではないので、兄弟という意識が希薄だったためである。権中納言は「二人とも、男女が逆になって生きるという奇妙な運命にあるのだから仲良くするのですよ」と言って、二人を引き合わせる。

女主人公が行方不明になったとき、男主人公は血を分けた兄弟の直感でもって見つけ出す。入れ替わるときに右大将だった女主人公は男人公に宮廷のしきたりを教授し、男主人公は女主人公に帝の身辺について教えた。もし二人の仲が悪かったら、入れ替わりはスムーズにいかなかっただろう。

はじめはどうなるかと懸念された権中納言家の兄弟(妹)だが、女として生きた男主人公と、男として生きた女主人公は、やがて自分の意志で本来の性に戻ることを選ぶ。そしてそのことを誰よりも喜んだのは権中納言であった。

一見無責任なようで、子供の意思を尊重した権中納言の教育方針は間違っていなかったのかもしれない。

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『男装の麗人』の第二の人生 とりかへばや物語考(1)

■参考文献
日本古典文学全集 住吉物語 とりかへばや物語」小学館 注釈つきの原文
とりかへばや、男と女」河合隼雄 新潮社 平成6年 
ざ・ちぇんじ」氷室冴子 集英社 昭和58年 女房たちの京都弁のしゃべり言葉がにぎやかで一気に読めるたのしい「とりかへばや」。作者のオリジナルにもなるほど、と思わせる。原作ではあまり描かれていない二人の北の方(母親)のイメージを膨らませている。

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2006/08/24 10:00:00 花咲けるやまとなでしこ絵巻 | | トラックバック (0)

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