いつも心に少女マンガ
「オスカルさま」に思うこと
「ベルサイユのばら」。この名作は、1968年生まれで大のマンガ好きの私にとっては、もはや「基礎教養」のような作品です。雑誌連載をリアルタイムで読んでこそいませんが、小学生のときに友達の家にあったコミックスでその華麗な世界にひきずりこまれて以来、自分でコミックスを買い何度も何度も読み返してきました。
さて、この名作の主要人物・オスカルは、男装の麗人にして近衛隊長(後に衛兵隊長)として活躍する剣の達人。幼いころの私にとって、オスカルさま(つい「さま」がつく)は、ひたすらに「仰ぎ見る、憧れの人」でしたが、今読むと、名作の常とはいえ、別の側面が見えてくることに驚きます。
作家の横森理香さんは「恋愛は少女マンガで教わった」(1996年クレスト社、1999年集英社文庫)という本のなかで、オスカルとは「仕事をして一人で生きてる三十すぎのキャリアウーマン、もしくは結婚してても働き続けてる主婦にとっては、どこか他人とは思えないような(ルックスじゃないよ)、共感と痛みを感じてしまう存在なのではないだろうか」と指摘されています。
そう。そもそも、私が少女だった(そしてベルばらが描かれた)1970年代は、女の子は「大きくなったら素敵な結婚をして家庭に入るのが幸せ」だと思われていた時代でした。その後、社会における女性の立場も大きく変化し、1986年には男女雇用機会均等法が施行され、女性も社会で働くことが当たり前になりました。
しかし、女性が「男性と平等」「同等」に働く歴史はまだ浅く、ある意味、「男並みに働く」ことは、「精神的な男装」みたいだなー、と感じる部分もあるのではないでしょうか。
そして、そうやって仕事でいくら頑張ってもどこかで「女として、それで幸せ?」と問われてしまう現代の女性たちは、悩み・苦しみの点では、一見非常に遠い存在である華麗なる近衛隊長・オスカルと共通する部分があるように思えてくるのです。そう思って読むと、オスカルを男として育てた父が、ある日突然「結婚して子どもを産め」と言い出すエピソードにも、「似たような体験をした人も多いんじゃ?」と思えてきます。
女性の生き方に多様な選択肢が増えたことは本当にすばらしいことだなー、と、私は思ってます。
でも一方で、なんだか女性に要求される役割って、よく見ると増えてない?って思うこともあります。
「ベルばら」にたとえていうと、
「(男並みに働く)オスカルであると同時に、(美しく優雅な母である)アントワネットでもあれ」
って言われてるような気がすることがあるのです。
現実には、ほとんどの女性は、影のようにつき従い献身的に助けてくれるアンドレもいなければ、豊富な資金を自由に使える王妃でもないというのに。
こう考えると「そりゃー無理でしょ!!」と思ってしまうのですが、実際には、あまり根拠のない規範に我が身を照らし合わせ、「○○(家事が、育児が、仕事が)完璧じゃないからダメな私」と思ってる人は、実は多いのでは。かく言う私も、その思い込みからなかなか自由にはなれません。
ともあれ、オスカルさまというのは、女性にとっては、「憧れ」であるとともに、成長して読むと違う形で「共感」できてしまう、そんな普遍性をもったキャラクターなのだなあ、としみじみ思うのでした。(川原和子)
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/08/04 10:00:00 いつも心に少女マンガ | Permalink | トラックバック (0)