神々のプロフィール―ばらに宿った神話―
ロザリーとプシュケ “かよわき”強い乙女たち
圧倒的に美しく、あまりにも強大。そして、とても気まぐれなギリシャ神話の神々は「ベルばら」の貴族と同じ存在である。
そしてその神々に虐(しい)たげられる人間は、「ベルばら」では平民ということになるだろう。特にかよわい乙女ほどつらいものはない。「生意気を言う」と女神に手ひどくいじめられたり、顔かたちが整っていたために好きでもない神から追いかけ回されたりして、たいていは哀れな結末をむかえる。
プシュケも人間のうら若い乙女だった。そして「女神よりも美しい」と噂されるほどの美貌(びぼう)に恵まれていた。だが、それが彼女の不幸となった。美をつかさどる女神アフロディテの憎しみを買ってしまったのだ。女神は自分の息子である(従者とも言われている)エロスを呼びつけた。
「あの生意気な小娘をこらしめておやり!」
純白の翼をもち、少女のような愛らしい顔立ちの、若き神エロス。彼が、恋心に火をつける黄金の矢の持ち主であることは、よく知られている。
しかし、今度ばかりは弓の犠牲者はエロス自身となった。彼はプシュケに恋をしてしまったのだ。
エロスは自分の姿や身分を隠したまま、プシュケと愛しあうようになったが、その幸せは長くは続かなかった。プシュケは愛する夫の姿を見たいという誘惑に負け、約束を破って夫の姿をランプで照らし出してしまう。
エロスは、悲しみながらもプシュケの元を去っていった。
本来ならば、ここで物語は終わり。
せっかく愛されたのに、それを信じることもできない乙女のおろかさ、これが教訓となる。
しかし、プシュケは他の乙女とは違っていた。ここからが彼女の本領発揮なのである。別れは確かにプシュケを打ちのめしたが、絶望させることはなかった。ひたむきな愛を抱いた乙女は、なによりも強かった。
プシュケは、傷つけてしまった夫に自分の愛が真実であったことを示したいと、彼を探し求めた。
エロスの庇護(ひご)を失った今、女神アフロディテに憎まれているプシュケを誰も受け入れてはくれない。
だがなんと、プシュケが訪れたのは当のアフロディテの元であった。姑アフロディテは憎らしい嫁に、どう考えてもイジメとしか思えない難題を次々に与えた。プシュケは困りはてたが、そのたびに健気でかわいそうな彼女を放っておけないという者が次々に現れ、救われる。最後にプシュケを救ったのは、彼女の王子さま、最愛のエロスだった。
プシュケは蝶の羽を持つ女神となった。エロスと永遠につがいであるのに、ふさわしいように。
ロザリー・ラ・モリエール。
血筋こそ貴族であるが、貧しい平民の娘として育った。養母を殺され、敵(かたき)を討とうと無謀にも単身、貴族の館に乗り込んだ。哀れなロザリーは、プシュケ同様あまりにも頼りなく小さいのに、この世界の神々である貴族という立場のオスカルの心を動かし、彼女に大きな転機を与えた。
オスカルに妹として愛されたロザリーの行動力は、その可憐な姿からは想像できないほどだった。
そしてロザリーもまた、彼女にふさわしい伴侶ベルナールとハッピーエンドとなる。
か弱いのか、強いのか。
それとも、か弱いからこそ、強かったのか。
なにはともあれ、乙女の一念は岩をも砕いたのである。(米倉敦子)
●参考文献
「ギリシア神話」偕成社 エディス・ハミルトン著 山室静 田代彩子共訳
初心者にも分かりやすく、内容も充実しています。英雄やトロイア戦争のエピソードも載っています。
◇ジェラール・フランソワ《アモールとプシュケ》ルーヴル美術館蔵
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/09/22 10:45:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | Permalink | トラックバック (0)