神々のプロフィール―ばらに宿った神話―
軍神アレス(マルス) 憎まれっ子も、時代が変われば、世にはばかる?
「軍神マルスの子として生きましょう」
父親ジャルジェ将軍に、オスカルが感謝の言葉のあとで言った台詞である。
ジャルジェ将軍こそが、オスカルを「男」として、「武家の跡継ぎ」として、育てた張本人であった。しかし、父は緊迫していく情勢に娘の身を案じ、彼女が家庭という安全な巣に入ることを望んだ。
オスカルにとって、父親の望みを退け、ジェローデルとの結婚を断るということは、ただ単にアンドレを選んだから、というだけではない。
女としての当たり前な生き方に背を向けてまで、自分自身の信念でもって立ち、生きて、戦っていく。性を越えて、ただひとりの武人として。それが、オスカルが目指した「軍神マルスの子」としての生き方であったのではないだろうか。
1回目は、オスカルが父と仰いだ「軍神マルス」、その人の素顔にせまってみたい。
※ ※
実は、ローマ人とギリシャ人は、それぞれ独自に神の呼び名を持っている。ローマ人は最高神を「ユピテル」と呼んだが、ギリシャ人は「ゼウス」と呼び、ローマ人の処女神「ディアナ」は、ギリシャ人には「アルテミス」と呼ばれた。
そして、ローマ人はこの神を「マルス」と呼び、ギリシャ人は「アレス」と呼んだ。彼に関しては違うのは呼び方ばかりではない。実は、ローマ人とギリシャ人では、この同じ軍神への評価が両極端なのだ。
「マルス」と呼ばれたローマ時代の軍神は、精悍な美貌(びぼう)をもった勇敢な青年だ。「アラン」の野性味のある男らしさに、「フェルゼン」の優美さをプラスといった感じか。マルスは、ローマ建国の父、ロムルスとレムスの父として大いに敬愛され、勇敢なばかりではなく、聡明さももちあわせている。
しかし、「アレス」と呼ばれた彼はまるで違う。太陽神「アポロン」にもひけをとらない美貌。むしろ正統派美少年のアポロンよりも、影のあるアレスの妖(あや)しい美貌は、多くの乙女心に火をつけたかもしれない。さらに正妻ヘラの息子であり、ゼウスの嫡男という血筋は、レトの子であるアポロンよりも由緒正しい。それなのに、彼の評価は散々なもの。勇敢というよりも凶暴。聡明どころか、思慮のかけらもない。
アレスのエピソードは、気の毒なほどぱっとしない。巨人オトスとエピアルテスにより、青銅の壺(つぼ)に13カ月間閉じ込められて死にそうになったり、母親ヘラを助けるつもりが、逆に撃退されたり。トロイア戦争では、同じく軍神で、ゼウスの愛娘であるアテネに負けたばかりか、人間にまで槍で刺される始末。結局一度として戦いに勝った試しはない。
彼の仲間もろくでなしばかりで、両親にすらあきれられた。凶暴な性格で、“女性版アレス”といえそうな不和の女神エリスや、アレスの活躍のおかげでたくさんの死者が獲得できると喜ぶ冥王ハデス。そして、もうひとり、彼の兄弟神ヘパイストスの妻でありながら、アレスを愛人にした、愛と美の女神アフロディテ。夫へパイストスにアレスとの密会の現場をおさえられ、恥をかかされた彼女だが、数人の子までなした仲の彼をきっとこう言って弁護してくれるだろう。
「それでも、アレスは、男らしくって、とっても魅力的よ。」
アレスのもつ残虐で暴力的な面を、文化的なギリシャ人は嫌い、あざ笑ったのだろうが、女神の言うように、それは裏を返せば男性的な魅力ともいえるだろう。ローマ人は、そんな彼をマルスと呼び、勇敢で雄々しいと賞賛した。ローマ人は、軍事力でもって、他国を屈服させ領土を広げて大帝国を築き上げた民だ。そんな彼らにとっては、父と仰ぎ、自分たちを導く神として彼はこれ以上になくふさわしかったのだろう。そして、フランス革命という動乱期に、古い伝統ある権力に、真っ向から立ち向かったオスカルにとっても。(米倉 敦子)
●参考文献
「ギリシア神話」偕成社 エディス・ハミルトン著 山室静 田代彩子共訳 初心者にも分かりやすく、内容も充実しています。英雄やトロイア戦争のエピソードも載っています。
「ギリシアの神話 神々の時代」中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳 神々のエピソード満載。彼らの誕生から、とんでもない冒険談まで。
「イリアス」上、下 岩波文庫 ホメロス著 松平千秋訳
「オデュッセイア」上、下 岩波文庫 ホメロス著 松平千秋訳
「ローマ神話」青土社 スチュアート・ペローン著 中島健訳 ローマ神話の起源などが詳しく記載されています。
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/09/08 10:36:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | Permalink | トラックバック (0)
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