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2006年11月10日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

美と愛に誘惑されて 黒衣の伯爵夫人エリザベートと王女メディア

 誰よりも美しく、誰よりも愛されたい。ヴィーナスが仕組んだこの誘惑には、どんな女性もあらがい難い。もっともこの誘惑の強さは、人によって程度に差があるようだ。あまりにも強く誘惑され、徹底して完璧な美や愛を求める時、女は悪女の道へと足を踏み入れてしまうことがある。

 『ベルサイユのばら外伝』に登場する“黒衣の伯爵夫人”エリザベート・ド・モンテクレールは、もはや若くはなかったが、十分に美しかった。はたから見れば、「年のせいか最近は少しシワもあるけど、他の人よりずっと私はきれい!」と満足すればいいのにと思うが、それではエリザベートは我慢できなかった。他人には分からないようなミクロレベルのシワですら許せないのだ。
 彼女が求めたのは完璧な美。そして「処女の生き血こそが、若さと美の秘薬」という思い込みに取りつかれ、数百人の罪もない少女の生き血を絞りとることになった。

 ギリシャ神話では、完璧な愛を求め、怖ろしいほど一人の男性を愛しぬいたために、悪女となった女性がいた。コルキスの王女であるメディアは、英雄イアソンを一目見た時から愛し、彼に愛されること以外考えられなくなってしまった。
 メディアは、金羊毛を求めてギリシャからやって来たイアソンの手助けして、母国コルキスを捨て、弟までも手にかけた。しかし、約束の金羊毛を持ち帰ったのに、イアソンの叔父ペリアスは、彼に王位を譲ろうしなかった。この時メディアは、愛するイアソンにかわって、すさまじい復讐でそれに報いた。
 魔術にたけた彼女は、年老いた雄羊を切り刻んでぐつぐつと釜で煮込んだ。すると不思議なことに、雄羊は子羊となって元気良く飛び出してきた。メディアはその様子をペリアスの娘たちに見せて、こう言った。
 「ごらんなさいな、こうすれば父上も若返りますわよ。」
 娘たちは父親を雄羊と同じ目にあわせてしまった。しかし魔術を持たない娘たちには、切り刻まれた父親を若返らせるどころか、生き返らせることすらできなかったのだ。
 残酷このうえないこれらの行為も全てがイアソンのため、イアソンから永遠に愛されるためだった。

 しかし、メディアの一途な愛は報われることはなかった。イアソンは、コリントスの王の娘グラウケと結婚すると言い出したのだ。あれだけ尽くされれば、かえって「なんでも結局は許してくれる」と思ってしまったのかもしれないし、あまりにも過激なメディアのやり方に、嫌気がさしていたのかもしれない。
 だが、メディアはイアソンに愛されるためにその手を血に染めてきたのだ。そのただひとつの前提であった愛が消え去るならば、メディアの尽くす理由などなくなる。

 完璧な美を求め続けた『ベルばら外伝』の黒衣の伯爵夫人エリザベートは、その悪行が露見した結果、“鉄の処女”ならぬ“鉄の紳士”リオネルの抱擁を自ら受け、命を落とした。しかし、17世紀初頭のトランシルヴァニアに実在したエリザベート・バートリのほうは、壁と窓を塗りこめられた自分の寝室に軟禁され、3年ほど生き永らえた。このような幽閉状態では、処女の生き血どころか、簡単なお手入れすらできず、その美貌を保つ術もなかっただろうから、むしろ死ぬよりも苦しかったであろう。

 メディアのほうはイアソンの花嫁を焼き殺し、イアソンとの間のわが子まで殺して去っていったという。それは劇作家エウリピデスの脚色ともいわれているが、このエピソードから、望んだものを手に入れられなかったメディアの深い絶望がうかがえる。しかも、彼女が求めた完璧な愛こそが、イアソンの愛を遠ざけたのだ。

 美と愛の誘惑。それはあまりにも魅力的で、あまりにも危険なのである。(米倉敦子)

●参考文献
「ギリシアの神話 神々の時代」中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳
 神々のエピソード満載。彼らの誕生から、とんでもない冒険談まで。

「ギリシア神話」偕成社 エディス・ハミルトン著 山室静 田代彩子共訳
 初心者にも分かりやすく、内容も充実しています。英雄やトロイア戦争のエピソードも載っています。

「ギリシャ悲劇全集5」岩波書店 エウリーピデース著 松平ちあきほか訳
 
「血の伯爵夫人 エリザベート・バートリ」PHP文庫 桐生 操著

「世界悪女物語」河出書房新社 澁澤 龍彦著

「世界悪女大全―淫乱で残虐で強欲な美人たち」文藝春秋 桐生 操著

◇ドラクロア《激怒のメディア》パリ、ルーヴル美術館

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2006/11/10 10:34:36 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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