いつも心に少女マンガ
「ベルばら」がなしとげた少女マンガ革命
累計で1500万部を越え、いまだ熱烈に読み継がれる「ベルサイユのばら」。
この名作を作者の池田理代子氏が描こうとしたとき、掲載誌「週刊マーガレット」の編集部からは「待った」がかかったそうです。理由は「少女マンガで、歴史ものは当たらない」から。
しかし、絶対に面白いものを描けると確信していた池田先生は、「当たらなかったら打ち切り」という約束で、「ベルばら」の連載をスタート。
結果はもちろん皆さんご存じの通り、読者の圧倒的支持を得るのでした。
これは2004年4月27日にNHK BS2で放映された、「BSこだわり館『THE・少女マンガ!~作者が語る名作の秘密』」の「ベルサイユのばら」の回で、池田先生ご自身が語っていたエピソードです。
この番組では、作者の池田理代子先生の生い立ちや作品誕生の経緯が、ご本人や周囲の人々の証言を交えながら語られていきます。
番組によると、池田先生は高校時代、学者になることを夢見て進学を希望するものの、昔気質の父親に「女に学問は必要ない!」と反対されてしまいます。先生はお父さんから出された厳しい条件(現役で国立大学へ、かつ学費は一年までしか出さない)をクリアし、東京教育大学(現・筑波大学)に進学します。
当時の東京教育大学は特に学生運動が激しく、池田先生も運動に関わるなかで、社会や親を批判しながら親に養ってもらうことに疑問を感じ、自活を決意。そんな池田先生にとって、マンガを描くことは、経済的に自立するための手段でもあったことが伝わってきます。
番組を見ていて印象的だったのは、池田先生が数回、「卑怯」という言葉を使われたことです。
最近は、よくないこととして、「非効率的」だとか、「場の空気を読めない」ことは言われますが、「卑怯なことだからよくない」という言葉は、なんだか久しく聞いていないような気がします。
この「卑怯」という言葉に、20代の池田先生が、いかに全存在をかけて「卑怯」なことをしないで筋を通す生き方をしたいと望んでいたか、いかに本気で「自立」ということを考えて実行していたか、またいかに本気でマンガを描いていたのかを見たような気がしました。
編集部の反対をおしきっても、自分の描きたいものを描きたい、そしてそれでヒットを出す、という意欲に燃えた若き池田先生が描いた「ベルサイユのばら」。
この作品は、以下の二つの点で、少女マンガに大きな革命をもたらしたといわれています。
一つは、少女マンガ初の本格的な歴史ものとなったこと。
そしてもう一つが、少女マンガで初めて長いページ数を割いたベッドシーンを描いたことです。
「本格的な歴史もの」という意味では、資料を集め識者に話を聞き、綿密に下調べをされたそうです。
その上で、「(読者にわかりやすいように話を作るために)調べた中から、何を落とすのかに苦労した」と池田先生が語っているように、できるだけ正確に、しかし娯楽としての面白さを損なうことがないよう腐心したことが、見事に作品として結実しているといえます。
後者については、同じ番組のなかで評論家・編集者の藤本由香里氏が、少女マンガに初めてベッドシーンが描かれたのは一条ゆかりの『ラブ・ゲーム』(1972年『りぼん』11月号掲載)だが、それはワンシーンだったこと、連載1回分を費やすほどの本格的なベッドシーンは、この「ベルばら」のオスカルとアンドレが結ばれるシーンが初めてであったこと、またそこにいたるまでの盛り上がり方の類のなさにも言及しています。
「売れっ子ゆえの苦悩」のエピソードにも驚かされました。
「ベルばら」の連載が大ヒットする一方で、腎臓に持病を抱えていた池田先生は高熱を出しては入院、ということを繰り返します。しかし「ベルばら」が載らない雑誌は売り上げに関わる、という編集者の要請で、連載を欠けさせないために、退院して原稿を描き、描いてからまた再入院、ということもあったとか。
な、なんというすさまじい逸話。
当時の熱気、そしてそれに応えた池田先生の覚悟が伝わってきて、圧倒されてしまうお話です。
こうして見てくると、「ベルばら」は、当時の学生運動に揺れた世相のなか、若き池田理代子という作家が綿密な調査のもとに、描きたいことを情熱をこめて描いた野心作であったことがわかります。そしてその作品で「少女マンガにおける革命」をなしとげたことは、「あの時代」の、「あのときの池田理代子」だから作り出すことができた、一つの奇跡であり、同時に必然でもあった、という気がしてくるのでした。(川原和子)
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□「売れっ子ゆえの苦悩」のエピソードはこちらでも
→3月11日掲載のベルばらKids「締め切りはつらいよ」
( 「ベルばらKids」のバックナンバーはクラブA&Aでご覧いただけます。)
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/11/17 10:30:00 いつも心に少女マンガ | Permalink | トラックバック (0)