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2006年12月 8日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

“泣ける”ラブストーリーの主人公たち オルフェウスとフェルゼン

 「“泣ける”ラブストーリー」のブームは現代に限ったことではなく、この手の話はいつの時代も絶大な人気を博している。現実では悲劇的な恋愛など望むはずもないが、物語上でヒーロー、ヒロインになりきって、その悲しい運命に酔いしれる心地よさは、覚えがある人も多いだろう。

 ギリシャ神話で最も有名な「“泣ける”ラブストーリー」の主人公は、『オルフェウスの窓』でもおなじみのオルフェウスである。「美声」という意の名を持つ女神カリオペを母とし、父アポロンからは竪琴の英才教育を受けたオルフェウスは、完璧な血筋の良さとこの上ない音楽の才能を誇り、おまけにトラキアの王でもあった。

最愛の女性エウリディケと結婚し、出来すぎなほど幸福なオルフェウスだったが、その人生は一気に暗転する。エウリディケが、毒蛇に足を噛まれてあっさり死んでしまったのだ。愛妻を失ったオルフェウスは全てを失ったと感じた。それほどの愛であった。

オルフェウスは、冥界の王ハデスが治めるあの世まで愛妻を連れ戻しに行く。神が生み出した音楽家オルフェウスの爪弾く竪琴にのせた悲しげな歌声は、冥界の番犬にも、冥界の河の渡し守にも効果絶大。これぞ究極のラブソングといえるだろう。ハデスとその妻もいたく感動してしまい、思わずエウリディケを連れて戻ることを許した。

ただハデスは、厳しくオルフェウスに言い渡す。

「地上に出るまで、振り返って妻を見てはならぬ」

もちろん、この手の忠告は破られるためにある。不安からか、地上の光を見た喜びからか、ついにオルフェウスは振り返ってしまい、永遠に愛妻を失うこととなった。

人の寿命や運命は、あらかじめそれを司る3人の女神モイライによって定められている。モイライが紡ぎ、測り、切った糸のその長さの分だけしか、人は生きることができない。オルフェウスといえども、それを覆すことはできなかった。絶対に免れない運命への悲しい抵抗、これこそが悲劇なのである。

“悲劇の王妃”と称されるマリー・アントワネットだが、最も悲劇の苦い味を味わったのは、フェルゼンの方ではないかと思う。

オルフェウスにとってのエウリディケ同様、アントワネットはフェルゼンの全てであった。決して手の届かない女性だったが、ただ一途にアントワネットだけを愛し、守ろうとし続けた。だが、命をかけ国王一家を国外へ逃がそうとしたフェルゼンの必死の抵抗も、運命を動かすことは不可能であった。フェルゼンは、どんな気持ちでアントワネットの処刑を見守り、その空しさを嘆いたことだろう。

ふたりの悲劇のヒーローは、よく似た末路をたどる。

愛妻をなくしたオルフェウスは、愛する心も失い、二度と結婚しなかった。そして女たちの怒りをかい、彼女たちに八つ裂きにされ、海に投げ入れられた。

一方、愛する女性を民衆に殺されたフェルゼンの心は、民衆への憎しみに煮えたぎっていた。祖国に帰り冷酷な圧政者となったフェルゼンは、暴徒と化した大勢の民衆によって惨殺され、血まみれの遺体となった。

オルフェウスにしろフェルゼンにしろ、彼らにできる精一杯のことはした。まだ人生の糸がある彼らが、新たな妻や恋人を持ち、過去を捨て幸せになったとて、誰が責めたりするだろうか。なにも自ら悲惨な最期を招くことはないのに。

だが、彼らはあまりにも愛しすぎた。人生の全てと思えるほどの愛する人に出会ったことこそが、彼らの不運であった。

とすると、出会わなければ、彼らに悲劇は訪れなかったのだろうか。けれど、それほど愛することができる人に出会えることこそが人生最大の幸福のはずで、出会えないことの方が悲劇なのでは?

はたして本当は、どちらが悲劇的なのでしょう。(米倉敦子)

《参考文献》
■「ギリシアの神話 英雄の時代」中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳
 神々のエピソード満載。彼らの誕生から、とんでもない冒険談まで。

■「ギリシア神話」偕成社 エディス・ハミルトン著 山室静 田代彩子共訳
初心者にも分かりやすく、内容も充実しています。英雄やトロイア戦争のエピソードも載っています。

■「ギリシャ神話付北欧神話」社会思想社 山室静著

■「ギリシアローマ神話ものがたり」創元社 C・エスタン+Hラポルト著 多田智満子監修
 解説ばかりではなく、オールカラーの資料にも注目の本です。

■「マリー・アントワネット」河出文庫 S・ツヴァイク 関楠生訳

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2006/12/08 10:30:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (1)

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203 :癒されたい名無しさん :04/11/21 21:51:33 ID:hCJPqqua 小学生のとき、足し算、引き算の計算や、会話のテンポが少し遅いA君がいた。でも、絵が上手な子だった。彼は、よく空の絵を描いた。抜けるような色遣いには、子供心に驚嘆した。 担任のN先生は算数の時間、解けないと分かっているのに答えをその子に聞く。冷や汗をかきながら、指を使って、え...... 続きを読む

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