2013年2月末をもってブログの更新を終了いたしました。 ⇒詳しく
e-book Japan ベルサイユのばら

0228delete -->

« アニばらベストエピソード&アンドレが吹いてるのは♪お便り | トップページ | さまよえる母性愛 デメテルとポリニャック伯夫人 »

2007年3月22日 (木)

天の涯から―東欧ベルばら漫談

友を求めて ~オーストリア皇女の孤独~

 私と夫が初めて出会った時、夫はまだポーランド移民として家族とアメリカに住んでいました。それで、その年のクリスマス、アメリカの彼の家に招待されたのですが、あちらの流儀は私の想像以上にオープンでフレンドリーで、それがかえって私を混乱させる結果になったのでした。

 たとえばクリスマス・パーティーでは、ご家族や招待客からたくさんのプレゼントを頂いたのですが、私は御礼を言った後、そのまま部屋に持ち帰り、パーティーが終わってから包みを開けたのでした。
 ところが後でご家族が心配そうに夫に打ち明けられたことは、
「まりは、私たちのプレゼントが気に入らなかったのかしら」
 こちらでは贈り主の目の前で包装を開け、サプライズしてみせるのが礼儀だったのです。私の振る舞いは、こちらでは贈り主の感情を袖にする行為だったんですね。

 そうかと思えば、親族のディナーの席で、ワインを注いで回っていたら、
「君はそんなことしなくていいんだよ」
 こちらではお酒を注ぐのは男性の役目であり、女性がお酒を注いで回るなど、はしたないことだったのです。日本の宴会だと、お酌もせずにぼうっと座っている女性は、「気が利かない」と顰蹙(ひんしゅく)を買うものですが。

 ちょっとしたことでもそうしたことが積もり積もると、本来の自分らしさはどんどん奥に引っ込んでしまうものです。
 自分では気を遣ったつもり、作法通りに振る舞ったつもりでも、相手にとっては失礼になるわけですから、何をするにも混乱するし、今まで一人前の社会人として難なくこなしていた事が通用しなくなるために、自分のことが小学生か幼稚園児みたいに思えて、自尊心も傷つくのです。

 異文化の中で生きていくには、自分の価値観やセルフイメージをいったんゼロにリセットして、一から立て直すプロセスが必要です。

 そんな時、夫に優しく支えられたり、在住者仲間とぱーっと飲みに出かけたり、現地ならではの楽しみを見つけられれば(私の場合はホームページ作りが元気の源でした)、前向きに頑張れるものですが、夫にまるで理解がなかったり、在住者社会から浮き上がったり、現地での生活に何の意義も見出せず、引きこもりがちになると、いわゆる「海外不適応」に陥り、深刻な心の病を呈することもあるのです。

 『マリー・アントワネットと悲運の王子』(講談社)によると、アントワネットはフランスに輿入れした時には流暢なフランス語を話したそうですが、では即座にフランス宮廷社会にとけ込めたかと言えば、決してそうではなかったでしょう。
 どんなに巧みなフランス語を話せようと、完璧な礼儀作法を身に付けようと、ベルサイユには、フランス貴族が長年に渡って作り上げてきた慣習、価値観、彼らにだけ通じる暗黙のルールなどがあり、異国人のマリーには緊張と戸惑いの連続だったと思います。
 自分らしさを取り戻そうと仮装舞踏会に夢中になったり、音楽や芝居や華麗なファッションで、精一杯、自分の花を咲かそうとした気持ちも分かるような気がします。

 そんな中、年上で、“天使のような目”をもったポリニャック夫人に出会ったマリーは、生き返るような気持ちだったでしょう。
「あのひとと ふたりきりになると わたしはもう王妃ではなくなって わたしという ひとりの人間にもどるのです」 という言葉通り、夫人に気持ちを受けとめてもらうことで心を慰められると同時に、異文化や社会的立場の下で押し潰されてきた自己愛や自尊心を取り戻すことができたのではないでしょうか。

 ただ、処世にかけては夫人の方が一枚も二枚も上手で、せっかくのマリーの好意も政治的に利用され、貴族たちの反感を買う結果になりましたが、外国の宮廷社会に一人で飛び込んで、真情を語る相手を得たことは、マリーにとって大きな心の支えだったと思います。

 彼女の不幸の一つは、人間として当たり前に求めたことが、歴史においては、宝石やドレスより高くついたことではないでしょうか。(優月まり)

参考文献: 『マリー・アントワネットと悲運の王子』川島ルミ子 著 (講談社)

お便り募集このコラムをお読みになった皆さんの感想や質問をお待ちしています。 ⇒こちらの「ベルばらKids専用フォーム」からどうぞ。

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/03/22 11:00:00 天の涯から―東欧ベルばら漫談 | | トラックバック (0)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/165303/14279720

この記事へのトラックバック一覧です: 友を求めて ~オーストリア皇女の孤独~: