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2007年3月23日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

さまよえる母性愛 デメテルとポリニャック伯夫人

 「ベルばら」の中で最もアンビバレントな人物、それはポリニャック伯夫人ではないかと思う。夫人を信じ、無邪気に好意を寄せるアントワネットを涼しい顔で操り、たかりまくる様は、文句なしに悪女だ。だが、若き日の悲しい恋の末に生まれた娘ロザリーに対する思いは複雑だ。

 ポリニャック伯夫人は「ポリニャック家に嫁いでも、シャルロットが生まれても、あなたを思わなかった日は一日だってありませんでした」と涙を流す。
 それでいて、結婚が嫌で自殺したシャルロットの身代わりに、ロザリーを公爵と結婚させようとする。ロザリーにとっては、悪魔の生け贄にでもされるようなものだというのに。なぜ、忘れられないほど愛している娘に、意に沿わぬ結婚を強制するのだろうか。

 母と娘の結婚にまつわるギリシャ神話といえば、豊穣をもたらす大地の女神デメテルと、その娘ペルセポネの物語を思い出す。ただデメテルはポリニャック伯夫人と違って結婚を反対した。というよりも、娘が結婚したことすら初めは知らなかったのだ。

 デメテルは神の王ゼウスと結婚したが、この結婚に本人は乗り気ではなかった。穏やかで争いを好まない性格である。他にあまりにもたくさんの妻がいるゼウスとの結婚は、わずらわしいことこの上ない。彼女の恋人イアシオンまで殺した夫などどうして愛せよう。
 しかし、ゼウスとの間に生まれた娘ペルセポネのことは、とても愛していた。「お母様!」と女神の胸に飛び込んでくる純粋無垢な愛くるしい少女。まだ芽吹いたばかりの新芽のようにか弱くて愛すべき存在。
 その娘が突然消えてしまったのだ。

 デメテルは誰かれかまわずに娘の消息を尋ねてはさ迷った。絶望した母親は、食べ物も飲み物も口にせず、沐浴で身を清めることも忘れた。輝ける不死の女神の姿が、老いさらばえた哀れな老婆になるほどその絶望は深かった。大地を照らす太陽神ヘリオスが、見かねてデメテルに教えた。お前の娘ペルセポネは冥府の王ハデスに連れ去られ、彼の妃となって地の底にいる。そして、それは父親ゼウスが認めたことだと。

 デメテルは激怒した。ペルセポネをこの胸に抱くまでは決して許さない。女神に見捨てられた大地は不毛と化し、いかなる植物も動物も育まなくなった。麦一本の収穫もない。人間たちは飢え、彼らに捧げ物をされることがなくなった神にとっても、これは由々しきことだった。
 ゼウスは自分で娘を嫁にやっておきながら、「やっぱり返して」と兄であるハデスにお願いするしかなかった。

 心からペルセポネを愛していた冥府の王ハデスは、母親を恋しがる少女を返してやった。けれど、永遠に別れてしまいたくない。
 「どうか、私が君の夫であることを、悲しまないでおくれ」
 ハデスはペルセポネにザクロを4粒、自分の手で食べさせる。冥界の食べ物を口にしたペルセポネは、1年の3分の1、4カ月だけは冥界で過ごすことになってしまった。

 夫の自分勝手な振る舞いに腹をたてていたデメテルは、娘の結婚を悲嘆したが、ペルセポネ自身にとっては、ハデスは悪い夫ではなかった。どんな時も当のペルセポネが、しっかりハデスのかたわらにいたのがなによりの証拠だろう。
 
 ポリニャック伯夫人があれほど地位と富にこだわった理由は、やはりロザリーの父親の不実な恋人、バロア家当主サン・レミー男爵にあったのではないだろうか。15歳の世間知らずの少女が、命をかけて愛したのに、無残に裏切られたのだ。妊娠までしていた彼女は、どんなに男の心が信じられないものなのか、裏切られることがどんなに辛いか、深く胸に刻んだことだろう。そんな人間の心よりも、地位や富のほうがずっと確実だし、裏切られて苦しむなら、裏切ったほうがいい。そう考えたのかもしれない。そして、デメテル同様、娘たちを自分と同じ目にはあわせたくはなかっただろう。
 
 母親は血を分けた娘の将来が見えるような気がする。愛があるからこそ、娘を災厄から守ろうと、時には強引に人生のレールをひきさえする。だが、当然のことながら娘と母親は一体ではない。その芽がどのように伸びるか、どんな葉をつけるかは、娘に任せるしかないないのだろう。
 ロザリーも結局は母親の意に反して、地位や富には程遠い人生を選ぶ。しかしロザリーは幸せになった。皮肉にも母親の生き方は、よき反面教師となったのだ。(米倉敦子)

《参考文献》
・「ギリシアの神話  神々の時代 英雄の時代」中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳
 神々のエピソード満載。彼らの誕生から、とんでもない冒険談まで。

・「ホメーロスの諸神讃歌」筑摩書房 ホメーロス著 沓掛良彦訳

「ギリシア神話」岩波文庫 アポロドーロス著 高津春繁訳

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/03/23 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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