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2007年4月13日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

口八丁手八丁の悪党列伝

 神話の世界で最大の悪とされるのは、人殺しでも放火でも窃盗でもない。神への不遜な態度、つまり神に挑戦したり逆らったりして、彼らの権威を脅かすことである。人間に敬われず、信じられず、その権威を犯されては、神話は成立すらできないのだ。

そう考えると、神をだました男シシュポスは、ギリシャ神話最大の大悪党であるといえるかもしれない。彼の大悪党としてのキャリアは、意外にもただの偶然からはじまった。

シシュポスは、家からほど近い岩の上からぼんやりと湾を眺めていた。すると、なんと神の王ゼウス河神の娘アイギナを連れ去っていくのが目に入った。この男は、よせばいいのに娘の父にこのことを告げ口してしまう。
 なんという不敬!憤慨したゼウスは、シシュポスの罪を死でもって償わせるべく、死神タナトスを派遣した。

シシュポスはこの陰気な神にあっけなく見つけられるが、逆にタナトスを丈夫な鎖でつないでしまう。死神が身動きがとれなくなったため、誰ひとり、死ぬことがなくなってしまった。神々は大慌てでシシュポスと交渉し、シシュポスは冥府に行く前に妻メロペと会わせてほしいという条件を出した。その時シシュポスは妻に、冥府の王夫妻への捧げものを一切しないようにと耳打ちした。

さて、待てど暮らせど本来捧げられるべき生け贄が届かない。いぶかる冥界の女王にシシュポスは
「なんて女だ!亭主の死を悼む気持ちも無いというのか!お優しい女王よ、私は、妻に一言言わねば、浮かばれません。」
と涙ながらに訴えてみせ、まんまと冥界脱出に成功する。もちろん冥界に帰ったりなどするわけがない。シシュポスはこうして口八丁手八丁で死を逃れ、神に勝利した。

シシュポスと負けず劣らずの悪名をはせる大泥棒、「生まれながらの狼」という名をもつ、アウトリュコス。宿命のライバルである2人の対決と和解は有名である。
アウトリュコスは、その出生からしてただ者ではない。アウトリュコスの母キオネは元々アポロンの恋人であったが、弟である盗賊の神ヘルメスが寝取り、アウトリュコスが生まれた。父ヘルメスの愛を一身に受けたアウトリュコスは、盗みと巧妙な偽誓の才を受け継いでいた。

アウトリュコスはこの才能でもって、近所に住むシシュポスの家畜をそ知らぬ顔で盗んだ。しかし、ここで泣き寝入りするシシュポスではなかった。シシュポスは家畜のひづめのへこみに鉛を注入して、文字をそこに刻んだ。
「アウトリュコス、これを盗む」。
この文字は、家畜が歩くたびに地面にハンコのように押された。

「あんた、やるじゃないか!気に入った!」
アウトリュコスは、ライバルの才気に深く感じ入り、互いにその悪党ぶりを認め合って、友情が芽生えた。アウトリュコスは、自分の屋敷にシシュポスを招待し、自分の娘をシシュポスに紹介する。シシュポスはその夜、ちゃっかり娘と一夜を共にした。

ちなみに、この時娘がみごもった子供が、かのギリシャ一の策略家オデュッセウスであった。大変な父と祖父を持ったものである。

シシュポスやアウトリュコスの仲間になる資格があるのは、「ベルばら」ではジャンヌしかいないだろう。女の武器を駆使したデュ・バリー夫人も、権力者からかすめとったポリニャック伯夫人も、ジャンヌの前では小悪党だ。

その点、ジャンヌは、やることがでかい。「首飾り事件」ではフランス中の民衆をだます。その不屈の魂は凄まじいばかりで、自分が有罪であることは一番自分が知っているだろうに、「あたしは無罪だー!」 とあくまで叫び、牢獄からも脱出を果たし、嘘八百の暴露本でぼろ儲けまでするのだから、ここまでいくとあっぱれだ。

しかし、いくら活躍しても、大悪人たちの末路に平穏はない。
シシュポスは一度は冥界から逃れたが、しょせんは死すべき運命に変わりはなかった。冥界の住人になったシシュポスは、大きな石を山頂へと押し上げるが、必ずその石は転がり落ち、また山頂へと押し上げて、という永遠のむなしい苦役につかされている。
ジャンヌも、最後は追いつめられ、金の妄想に囚われたまま命を落とした。

だが、それでも彼らは、善悪すら超えて、最も正直に彼ららしく生きたのかもしれない。周囲にとって、それは迷惑この上ないのだが。(米倉敦子)

《参考文献》
「ギリシアの神話  神々の時代 英雄の時代」中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳
  神々のエピソード満載。彼らの誕生から、とんでもない冒険談まで。

「ギリシア神話」中公新書 西村賀子著

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/04/13 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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