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2007年5月24日 (木)

天の涯から―東欧ベルばら漫談

愛する人の面影を留めて~ルブラン夫人の肖像画~

 欧米の家庭を訪問すると、必ずと言っていいほど、あちこちに家族の写真が飾られています。居間や寝室はもちろん、キッチンや廊下、冷蔵庫の扉にまで家族の写真が貼り付けられていることも少なくありません。
 中でも一番印象に残っているのが、スーパーのレジでの出来事です。

 いかにも飲んだくれみたいなオジサンが、ビールとピーナッツを買うついでに、レジ台の近くにあったバービーのラムネ・ネックレス(ラムネを繋いだネックレスに、バービー人形の写真入りペンダントが付いている)を2本、そそくさと買い求めました。「あら、家庭的なのね」と感心していると、支払いで財布を開いた瞬間、透明なホルダーに幼い姉妹の写真が入っているのが見えたのです。ラムネのネックレスなんて、本当に子供だましみたいな物ですけど、きっと喜ぶだろうなあと思ったら、私まで幸せな気分になったのでした。

 愛する人の姿を常に目の届く所に置いていたい。肌身離さず身に付けて、その温もりを感じたいという思いは、遠い昔から人類共通の願いだったと思います。写真もビデオも無い時代、西洋絵画が著しく発達したのも、決して権威や芸術の為だけではないでしょう。

 ベルばらでは、マリー・アントワネットの肖像画を描くルブラン夫人が登場しますが、彼女は実在した著名な画家であり、マリーとも非常に親しかったと言い伝えられています。
 私がずっと前に読んだ文献によれば、ルブラン夫人は、「実物よりほんのちょっぴり美しく描く」という点で、宮廷社会から絶大な人気があったようです。今に残るマリーの肖像画を見ても、彼女のふくよかで優しい魅力が十分に伝わって、なるほど、彼女に描いて欲しいと願う人はひっきり無しだっただろうな、と思わずにいません。現代にたとえれば、ELLEやVOGUE(フランス発の世界的ファッション誌)の専属カメラマンにプロ仕様のポートレートを撮ってもらうようなものでしょうか。

 ベルばらでは、絵筆をとるルブラン夫人が、「王妃さまのお肌があまりにも美しくすきとおっていて、どんな絵の具をつかっても、その色がでないのでございますもの」 と溜め息をつく場面がありますが、その苦心は頷けるものがあります。
 私の住んでいる地域は大半がスラブ系で、色白の方が多いのですが、たまにギリシャ彫刻のように美しい肌の持ち主に出会うことがあります。その白さたるや、ほんのり温めたミルクに桜の花びらを溶かしたような愛らしさで、それが笑った時に紅潮すると、初夏の白桃のようにみずみずしい輝きを放つのです。
 これを絵に描くとしたら、ピンクと白と肌色を少しずつ混ぜて……いやもう、何色を使えばいいのか想像もつきません。マリーの美しい肌を前にルブラン夫人が溜め息を洩らすのも、もっともな話と思います。

 ルブラン夫人が描いたマリーの肖像画で有名な作品の一つに、『マリー・アントワネットと子供達』(ベルサイユ宮に展示)がありますが、これは王妃の人気回復のために、彼女の母親としての魅力を強調して描かれたと言われています。しかし、その満ち足りた姿がかえって民衆の反発を招き、革命への抑止力にはなりませんでした。
 この絵の中で、マリーは幼いルイ・シャルルを膝の上に抱いていますが、こんな小さな坊やが母親の膝の上でじっとモデルを務めているはずがなく、やんちゃ盛りの子供達を一つの構図にまとめ、マリーのあふれんばかりの愛と威厳を表現したのは、やはりルブラン夫人の腕によるものが大きいと言えましょう。 
 表面的には、王侯貴族のお抱え画家のようなイメージのあるルブラン夫人ですが、彼女がマリーの肖像画に込めた想いは画家以上のものだったろうと想像します。
 今も額縁の中から優しく微笑みかけるマリーの姿を見る時、決して虚飾ばかりではなかった彼女の人生と、彼女に優しく寄り添う友人の温かな眼差しを感じずにはいられないのです。(優月まり)

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/05/24 11:00:00 天の涯から―東欧ベルばら漫談 | | トラックバック (0)

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