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2007年5月 4日 (金)

アニばら解体新書

もはや戻れない、アニメが道を分かつ時

 アニばら第28話「アンドレ 青いレモン」のタイトルは、おそらくデュークエイセスの「おさななじみ」という曲からとったと思われます(作詞はなんと永六輔!)。しかし、件(くだん)の曲が無邪気なラブソングであるのに対して、28話は「このままではいられない」という、登場人物たちの悲愴な決意が前面に押し出された、非常に強烈な回になっています。27話までに築き上げてきた彼らの関係が、ここで一気に変化するのです。

 さらにこの回は「アニばら」が、ストーリー展開もさることながら、登場人物の解釈までもが原作と違っていることを思い知らされるという点で、衝撃的な回でもあります。それでは、ツッコミどころ満載の第28話を、まずあらすじから追ってみましょう。

 最初にこれまでのフェルゼンとの関係を断ち切るのはアントワネットです。ジョセフ皇太子が病に倒れたのを見て、礼拝堂で「あの子の苦しみが私の犯した罪へのいましめならば、私は今ここで“フェルゼンとはもう会わない”と誓いを立ててもかまいません」 と泣きながら訴えます。うっかりその様子を眼にし、傷つきながらジャルジェ家へおもむくフェルゼン。しかし、これまたうっかりオスカルが愛していたのが自分であることに気付いてしまいます。そして別れの言葉を交わし合うオスカルとフェルゼン。

 原作では、このあとすぐにアンドレの告白が入る構成になっています。連載当時のページ組みや掲載順序を再現した「ベルサイユのばら・完全版」を見ると、どうやら連載時、フェルゼンとの別れで始まった回は、アンドレの告白で締めくくられたようです。当時の読者の興奮は大変なものだったでしょう。う、うらやましい。

 アニメでも、アンドレの告白が話の終わりに挿入されますが、そこにたどりつくまでの過程に大きな違いが見られます。
 まず、失明の可能性が高いことを悟ったアンドレは、やけになって繰り出したパリの街でアランや衛兵隊員と出会います。呑んで帰ってきて、一晩中起きていた様子のオスカルに声をかけると、近衛隊をやめる」 との返事。

 「なぜだ?」と悩むアンドレ。そんなある日、幼かったころに、馬小屋の柱につけた“たけくらべ”の傷を見て、オスカルが語り始めます。
 「より男として生きたい。女も、甘えも忘れて男でなければできない任務につきたい」 と。
 自らの女性性の否定・自己否定に近い言葉を重ねるオスカルをアンドレは無言で見守ります。
 しかしオスカルに
 「もう私の供はしなくてもよい。(中略)私はまず、一人で生きることからはじめてみたい」
 と言われ、つい一言口に出してしまいます。
 「赤く咲いても白く咲いてもバラはバラだ。バラはライラックになれるはずがない」

 「それはしょせん女は女でしかないと言うことか?」 と激怒するオスカルを押し倒してしまうアンドレ。我に返って
 「オスカルがオスカルじゃなくなることなんて、できはしない」 という言葉を残して去っていきます。

 ここまでたった25分間。このエピソードの量! やはり出崎監督はただものじゃない…。

 さて、エピソードの量だけツッコむ箇所がある28話ですが、もっとも重要なツッコミどころは「より男として生きたい」と言い出すオスカルでしょう。

 ひとつの作品がマンガ・アニメ・小説と、別分野で展開されるとき、登場人物の解釈の変更は、それがポジティブな方向である限り、ほとんど問題にされません。これまで見てきたジャンヌロザリーフェルゼンらは、「出番が増えた」「人間的に強くなった」「語りうるテーマが増えた」など、比較的プラスに働く変更ばかりでした。

 しかし、「男として」と言い出すオスカルは、“女である自分”を否定しています。原作のオスカルは、フェルゼンに異性として認められていないことや、多くの女性がやがて家庭に入ることを強制されることに葛藤はしますが、“女である自分”そのものを否定したことはないのに。

 実際、オスカルの複雑な育ちを考えると、もう少しアイデンティティに揺らぎがあってもおかしくはない。原作を読んだことがない視聴者には、アニメの展開はきわめて自然なものとして写るでしょう。
 けれど、あえてそういった葛藤を持ち込まず、多少単純化した形でオスカルの強さを描写したことで、原作のオスカルは女の子たちにとって特別な、「神話的な存在」になりえたと思うのです。
 ですから、この変更は多くの女の子たちにとって、原作のオスカルの神話性をおびやかすものだったと言えます。

 この大幅な変更は、出崎監督が原作とは違う方角に、“描きたいもの”を見つけてしまったためなのでしょう。この回を機に、物語は加速度的に“監督の描きたい方向”へ進んでゆきます。28話以後、多くの原作ファンの視聴者は「監督の描きたいものの面白さ」と「原作との解釈差」に苦しめられることになるのでした。(池田智恵)

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/05/04 11:00:00 アニばら解体新書 | | トラックバック (0)

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