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2007年5月11日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

名脇役は語らず ヘクトルとアラン

 トロイア戦争を描いた大叙事詩「イリアス」の主人公は、大英雄のアキレウスであり、彼の率いるギリシャがトロイアに勝利する物語だ。

 ギリシャの詩人ホメロスが、同国人のために国の英雄を主人公として書いた物語だからといって、作者はギリシャを一方的にひいきして描き、ただその勝利を称えているのではない。「イリアス」が勝者のためだけの物語なら、名作として普遍的な命を持ち、後世の人までも感動を与えることができなかっただろう。実は「イリアス」では敗者のトロイア側こそ情緒豊かに語られているのだ。
そしてすぐれた物語には、必ず名脇役がいる。「イリアス」の場合、悲運に散っていったトロイアの将ヘクトルの存在が光る。

ヘクトルは、トロイアの王子であり、まだ若いながら老父に代わり大将の役目をはたしている。彼の背負うものはあまりにも重い。国に攻め入られ、まさに国を敵に蹂躙(じゅうりん)されようとしているのだ。それを許せば、国中の女たちが奴隷の身に堕ち、子は殺される。その中には自分の妻とまだ赤ん坊の息子もいるのだ。
常人ならば、その重責に耐えかねただろうが、ヘクトルはその重みに耐え、いの一番に自分の命を的にされながらも誰よりも勇敢であった。それでいて、この戦の元凶である美女ヘレナをただの一言も責めない。

戦いの最中、ヘクトルは、城壁上で愛妻アンドロマケと乳母に抱かれる子供に再会する。これが最後となるかもしれない。常に死神の影を見るヘクトルは、そう思わずにはいられない。

その時、ヘクトルは妻に言葉をかげずに、じっと子の顔を見つめ、微笑んだ。
何故ヘクトルはこの時、ただ微笑んだのだろうか。幼子の愛らしさについ微笑んだだけだろうか。それとも、死力を尽くしても、どうしてやることもできない。だから、せめて微笑んでみせたのだろうか。他にどうしようもなかったその時、精一杯の思いで微笑んだのだろうか。

ヘクトルの最後は、あまりにも残酷なものだった。親友パトロクロスをヘクトルに殺され、怒り猛る英雄アキレウスは、女神アテナの加勢もあってヘクトルを討ち果たす。だが、アキレウスの激情は彼の命を奪うだけでは収まらなかった。アキレウスは、ヘクトルの死体を戦車にくくりつけ、引き回して傷つけた。砂塵を舞い上げ、ぼろぼろに傷つけられるヘクトルの遺体。それは、誰もが目を背けたくなるような残忍な仕打ちであった。

まだ若い息子の哀れなこの姿は、年老いたヘクトルの父にとって、自分が死ぬよりも怖ろしい苦しみであった。父親は、憎い仇であるアキレウス自身の足元にひれ伏した。どうか、息子の遺体を埋葬させてほしい。この年老いた父親の嘆願に、アキレウスははっと我に返った。足元で涙にむせぶ老人に、自分の父親を思い起こしたのだ。もし、敗者が自分ならば、ここで這いつくばり嘆き悲しんでいるのは、自分の父親なのだ。アキレウスは、老人と共に涙を流した。

この時、勝者も敗者も無くなり、確かに人としてギリシャとトロイアがつながりあったのだ。それは神すら意図できなかったことであり、ヘクトルの死こそ、作者ホメロスの真意を最も雄弁に語ったといえるのではないだろうか。

「ベルばら」の名脇役といえば、やはりこの人ではないだろうか。

「女の命令なんざ聞けるか!」
アランの最初の印象は、かなり悪い。
フェルゼンのように洗練された貴公子ではないし、ジェローデルのように女性をとろけさせる甘い言葉も言えない。アンドレのように優しく包容力があるという感じでもない。初登場時はただただ無骨物、美男子でもない、どちらかというと、オスカルの敵役だ。

 しかし、アランがオスカルに反発したのは、衛兵隊員たちの悲惨な実情を思ってのことだった。最後はオスカルを認めるが、狼のようなアランは、簡単には膝を屈しないし、ましてや他人をそう簡単には愛したりはしないのだろう。
オスカルの唇を奪ったあと、アランはアンドレの拳も黙って受けようとした。はなから自分の思いが適わないことも、アンドレの気持ちも分かっていたから、そうするしかなかったのだろう。

アランは決して愛しているとは言わなかった。それこそがアランの深い愛の証であるのだろう。
「栄光のナポレオン」でも生涯その思いを守り通し、自分の信条に従って命を落とした。この作品でもアランは脇役だ。だが、語らないのに雄弁であるというのは、名脇役であるなによりの証なのかもしれない。(米倉敦子)

《参考文献》
「イリアス」ホメロス著 松本千秋訳 岩波文庫
「ギリシア神話」偕成社 エディス・ハミルトン著 山室静 田代彩子共訳
 初心者にも分かりやすく、内容も充実しています。英雄やトロイア戦争のエピソードも載っています。
「ギリシアの神話  神々の時代 英雄の時代」中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳
  神々のエピソード満載。彼らの誕生から、とんでもない冒険談まで。

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/05/11 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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