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2007年7月13日 (金)

アニばら解体新書

暗君と忠臣のドラマとして

「不幸になってみてはじめて人間は自分が何者であるかわかるものなのですね」

原作では、サン・クルーの離宮でアントワネットフェルゼンにつぶやくセリフ。これは実在するアントワネットの手紙の中の一文を元にしています。ツヴァイクの「マリー・アントワネット」とマンガ「ベルサイユのばら」の主題は、アントワネット自らが産み出したこの言葉に収斂(しゅうれん)されています。

その職務に対して無自覚なまま最高権力者の座についてしまい、王妃として生きることを拒んできた彼女が、歴史の転換点の中で成長していき、最後になってやっと王妃としての自覚を得る。原作でのアントワネットは「これがフランス王妃の死にかたです!!」 と言って死んでいきますが、ここには、絶対君主として処刑を受け入れようとする彼女の、明確な意志が感じられます。
歴史が用意した役割を演じきって死んでゆくアントワネット。ツヴァイクが「マリー・アントワネット」の中で描き出そうとした“平凡な少女の人間的成長”という主題を、マンガの「ベルサイユのばら」は見事に表現しています。

対して出﨑アニメ版でのアントワネットは、はじめから少女らしさを省かれ、わかりやすい暗君として描かれています。また、原作では抑圧された環境の中で、彼女の唯一のよりどころとして存在するフェルゼンですが、アニメではアントワネットから「あの子(ルイ=ジョゼフ)の苦しみが私の犯した罪への戒めならば、私は今ここでフェルゼンとはもう会わないと誓いを立ててもかまいません」 なんてあっさり言われており、なんだか不憫です。

民衆側をすばらしく幅のある表現で描ききってくれた監督にしてはずいぶん類型的な人物像。話数の制限もあったのでしょうが、アントワネットの成長のドラマは「ベルばら」の縦糸にあたる部分なので、もう少し掘り下げて描いてほしかった。

さて、アニメでは成長のドラマを省略されてしまったアントワネットですが、一方でアニメの人物像だからこそ描けた新しいドラマも生み出されています。それがアントワネットとオスカルの別れの場面です。(第36話「合言葉は“サヨナラ”」)

 民衆の暴動に備えてパリ市内に軍隊を駐屯させていると聞いたオスカルは、アントワネットに進言します。

「軍をお引きください王侯陛下! 王室が、ご自分の国の民に銃を向けてはなりません」
「それは…できません。オスカル」

 それを聞いたオスカルは黙って一礼し、アントワネットから去ってゆきます。その背を見ながらアントワネットは「オスカル、なぜ涙が…。もうこれきり会えないみたいに…」 とつぶやき、「オー・ルボワール」(さようなら) と別れの言葉を口にします。オスカルもふり返らずに「オー・ルボワール」 と答え、二人の目からこぼれる涙が風にながれてゆく。そして穏やかな音楽とともにナレーションが語りかけます。

「これが永遠の別れであることは、アントワネットもオスカルもわかりすぎるほどわかっていた。一国の女王という壁は、あたためあった友情ですらついに超えることができなかったのである」

 しかし、ナレーションの予言とは違い、最後までアントワネットはオスカルとの思い出を大切なものとして胸に抱いていました。最終話「さようなら我が愛しのオスカル」で、アントワネットはロザリーと再会し、オスカルの思い出を語り合います。
「心が安まります。オスカルに思いをはせると…」 とつぶやくアントワネット。そして、最後の日の朝、化粧紙でつくったばらをロザリーに手渡します。
「このバラに色をつけてくださいな。オスカルの好きだった色を」 との言葉を残して。

 旧制度の象徴として滅ぼされるものと、旧制度を滅ぼすもの。道を分かつことになった二人が、しかしお互いを信頼しあっていたということが読みとれるラストです。原作よりもはっきりと、二人の立場の違いが描かれているアニメならではのドラマと言えるでしょう。原作のアントワネットが持っていたみずみずしさはアニメによって失われてしまいましたが、新しく作り出した人物像に沿って、魅力的なドラマを演出したことは素直に敬意を表すべきでしょう。(池田智恵)

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/07/13 11:00:00 アニばら解体新書 | | トラックバック (0)

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