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2007年7月27日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

身分違いの恋の結末は イピスとアンドレ

 身分違いの恋はとても魅力的なテーマだ。 “周囲の無理解”という障害が恋を燃えあがらせるし、もう一つ、この恋の形態が、なかなか成立しにくいということがあるように思える。

 たとえば、こんなエピソードがオウィディウスの「変身物語」にある。
 イピスという身分の卑しい若者がいた。彼が高貴なる姫君アナクサレテを垣間見て、恋をした。それは「骨の髄まで熱くなるのを覚えた」 と表現されているような、常軌を逸した恐ろしいほどの慕情だった。

 このふたりの前に立ちはだかる、神話の時代の身分の差というのは、現代の日本人である私たちには実感がわかないが、身分が違えばまず財力と育ちがまるで違ってくることは想像できる。それは“格差”どころの騒ぎではないだろう。

かたや何不自由なく育てられ、つま先から頭のてっぺんまで美しく磨かれた姫君。周囲には彼女と同様に財力も地位もある男性がいて、美しく高貴な彼女をちやほやする。
それに対して、イピスは飾り立てることも、教養を身につけるチャンスもはなから恵まれない。ただあるのは若さとその狂気じみた情熱だけだ。そもそも姫を垣間見るだけでも奇跡に近い偶然だったのではないだろうか。

この若者をどんな理由でわざわざ姫が恋するのだろうか?もちろん、普通はそんなことはありえない。

 至極当たり前じゃないかと思うが、アナクサレテは、イピスなど鼻にもかけなかった。
イピスの求愛は客観的に見て、現代なら過激なストーカー。警察に通報されてもおかしくないような、乙女が心を開くわけもないものであった。アナクサレテの住むお屋敷におしかけては、「世界の中心」ならず、「彼女の自宅前」で愛を叫び、お屋敷の召使を呼び止めては取り入ろうとし、しまいには戸口の前でのたうちまわりながら、つれない閉ざされた扉に罵詈雑言をあびせるといった始末。まさに彼女は「ドン引き」な状態だっただろう。

ただ、彼女はこの言葉を肝に銘じておくべきだった。「可愛さあまって、憎さ百倍」。この手の思い込みの激しい若者を、冷笑でもって追いつめることは自分の首を絞めるのも同然だということを。

これほど愛しぬき、思いのかぎり愛を示したのに非情な乙女アナクサレテが振り向くことはないと知ったイピス。その絶望は、過激な復讐心へと変化した。
怒りにたぎる目をらんらんと光らせるこの若者を、もはや誰も止められはしない。
「この花輪なら君も気に入ってくれるだろう!」 イピスは屋敷の門に輪縄を縛りつけた。そこには彼がかつてアナクサレテのために捧げた花輪が飾られていた。そしてイピスは輪縄に首を勢いよくさし入れた。

だらりとぶら下がった若者の体は、振り子のように揺れて、彼女の門を何度か打ちつけた。その恨みがましい重苦しい音は、どんなに彼女にとって恐ろしかったことか!

それに比べると、本当につくづくアンドレは、なんて女性思いのいい男だろう!と思ってしまう。面白いほどにイピスと反対で、穏やかに決してでしゃばらず、いざとなったら優しくサポートするその姿勢、本当に素晴らしいとしか言いようがない。
こうしたふたりの間柄は、オスカルの「遊び相手」として幼い時に連れてこられたというアンドレの役割のせいでもあるだろうし、アンドレの我慢強さと優しさ、類まれなる男の器量があって成り立たったレア・ケースであるだろう。
大概の「身分違いの恋」は、「ああ、勘違い。身の程知らず」という結果になるのではないか。気の毒だが、そもそも接点が無さすぎるのだ。

ところで、驚くべきことに、実はイピスとアナクサレテのエピソードで批判されているのは、イピスではなくアナクサレテのほうなのだ。あれほど深い男の愛を袖にするとは、何と冷たい石のような乙女ではないか!ということで、アナクサレテの体は、イピスの葬列を見た時に石になってしまったという。それは心の冷たい可愛げのない乙女への神からの罰なのだ。

何しろ大昔のお話。女性を男性よりも一段下にみているのだろうから仕方ないだろう。だいたい女が男に逆らうこと自体、生意気ということだ。しかし、ちょっとそれはあんまりじゃないかと思わずにはいられないエピソードである。(米倉敦子)

《参考文献》
「変身物語」オウィディウス著 中村喜也訳 岩波文庫

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/07/27 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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