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2007年8月24日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

悪女の言い分 クリュタイムネストラとジャンヌ

 ジャンヌロザリー姉妹。あなたならどちらにシンパシーを覚えますか?
 そう質問されて、さすがに大きな声で「ジャンヌ!」とは答えにくい。だが、そこをあえて今回は「ジャンヌ!」と言ってみたい。
確かに病身の母親を見捨て、世話になった心優しい候爵夫人を殺害し、はては「首飾り事件」でフランス王妃を陥れた悪女など大っぴらには肯定できない。ジャンヌは自分の欲望のためなら、何だってしてのけるのだ。
だが、「どんなことがあっても貧乏なんてイヤ!」 というジャンヌのストレートで全くてらいのない欲望は、気持ち的には良く分かるし、どこか痛々しくもある。少なくともジャンヌが「貧乏なんてイヤ!」と思うような環境に生まれたのは彼女のせいではない。

 ギリシャ神話の悪女クリュタイムネストラは、絶世の美女ヘレネの姉妹だ。彼女もジャンヌのようにとても気性が激しかった。
姉妹ヘレネの駆け落ちはトロイア戦争へと発展し、多くの人々に取り返しのつかない不幸をもたらしたが、クリュタイムネストラも甚大な被害をこうむった。

クリュタイムネストラの夫は、トロイアに攻め入ったギリシャの総大将アガメムノンである。その夫が、愛娘のイピゲネイアを、女神アルテミスに生け贄として捧げてしまったのだ。女神の怒りが彼の軍勢の行く手を阻むからといって。

アガメムノンは、娘はギリシャの他に並ぶ者もいない英雄アキレウスの花嫁になるのだと偽り、妻と娘を呼び寄せた。死出の旅立ちであるとも知らずに、婚礼衣装を持ってクリュタイムネストラは、イピゲネイアと夫の元へ出かけていった。真実を知った妻は必死になって助命を願ったが、いとしい娘は彼女の腕から永遠に奪われてしまった。

クリュタイムネストラは気が狂わんばかりに悲しんだ。悲しむうちに、あまりにも非情な夫への憎しみは抜き差しならないものへとなっていった。それは不貞を犯して、夫を裏切ってみたところで、静まることはなかった。死は死であがなわれなければ…。

権力者であり、堂々たる体躯の夫アガメムノン。この男は強さゆえの、他人を踏みつけにしてもはばからない傲慢さを持っていた。
イビゲネイアを差し出した後、アガメムノンは、トロイアの姫カサンドラを戦利品として連れて帰ってくる。
なんて無神経な男だろう!クリュタイムネストラはどうしても許せなかった。あのカサンドラという娘は、あの子、愛しいイピゲネイアと同じくらいの年頃ではないか。よりによって、そんな娘を妾にして、悲しんでいる妻の元に連れてくるだなんて!

クリュタイムネストラにとって、カサンドラも自分を苦しめたうえでは同罪だった。予言の力を持っていたカサンドラは自分の死を予言し、その予言はクリュタイムネストラに殺されることにより、真実となった。

夫の愛人を殺してから、クリュタイムネストラは、真の獲物に近づいた。アガメムノンはちょうど湯浴みを終えたところで、そのぬれた裸体をふき取ろうとしていた。まさか戦を終えてやっと戻った我が家で、敵地ではなく最も安らげるはずの妻が守る館で…という思いだったことだろう。

クリュタイムネストラの細腕では斧を振り上げることすら至難の業であったはずだ。しかし彼女は、二度、いや三度、夫の頭上に斧を振り下ろした。非力な深窓の奥方が、百戦錬磨の武将である夫の血しぶきを浴び、息の根を止めてのけた。尋常ではない怒り。これが、その白い腕に禍々(まがまが)しい力を与えたのだろうか。

抑制できない欲望や憎しみは「私は運命から虐げられている」という怨嗟(えんさ)から沸き起こる。
「本当は私だって裕福で満たされた生活をしてもいいはずだ!」
「よりによって夫が大事な娘を殺すなんて!」 その気持ちは、確かにもっともで、誰でも共感できるだろう。

だが、他人を害する行為や復讐は、必ず自分の元に跳ね返ってくる。
ジャンヌは異常なほど執拗に欲望を追い求めたあげく、自分で犯した罪によって追いつめられて正気を失くし、命まで失った。
クリュタイムネストラは、父親を殺された自分の子供の手にかかって命を落とすのである。
因果応報。そういってしまえばそれまでなのだが…

それでも彼女たちのような女たちは、地の底からでも叫び続けているように思える。
「私は悪くないのに!」 (米倉敦子)

● 参考文献
「ギリシア悲劇I」アイスキュロス著 ちくま文庫
「ギリシア悲劇IV」エウリピデス著 ちくま文庫
「ギリシアの神話 英雄の時代」カール・ケレーニイ著 植田兼義訳 中公文庫

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/08/24 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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