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2007年10月12日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

“死の大天使”の危険な魅惑

ジャコバン派の革命家であり、史実では悪名高い恐怖政治で知られるロベスピエール。そのロベスピエールの傍らにいた“死の大天使”の異名を持つ妖しい美貌の若者、サン・ジュスト。彼の「ベルサイユのばら」での登場シーンはほんのわずかだが、その存在感は並々ならぬもので、深い思い入れを池田理代子先生の筆から感じるのは私だけではないと思う。

とにかく彼は誰にも負けないくらいに美しい。例の長ったらしいフルネーム「ルイ・アントワーヌ・レオン・フロレル・ド・サン・ジュスト」も作中で紹介されているし、彼が体制を批判したエロティックな風刺詩「オルガン」を出版しておたずね者になったことも、ピカルディー州の議員になったエピソ-ドもきちんと描かれている。

彼を印象づける極めつけのシーンが「死の大天使」の本領発揮ともいうべき、ルイ16世の処刑を求める演説だ。その時、若干25歳。女性とみまごうようなむしろ優しげな面立ち。その彼が革命直後の1792年、国王をかばう王党派の声も大きい中、堂々と言い放ったのだ。

「国民のものである主権をひとりじめにし、国王として君臨することそのものが罪なのだ。祖国が栄えるために、ルイは死なねばならない」

ルイの妹・エリザベス内親王が嘆くように、国王であるということはルイ16世のせいではないし、それ自体に罪はないはずだ。だが、国王という存在は革命の名の下、もはや許すべき存在ではない。革命こそ正義で、それに反するものは消し去るべきだ。よってルイ16世は死刑にならなくてはいけない。これこそ、少しの妥協も許さないサン・ジュストの冷徹な革命への理論が集約された言葉なのであろう。

まさに“死の大天使”の一刀。大喝采を浴びたサン・ジュストの鋭いこの一刀が、ルイ16世を死へと導いた。それは歴史的瞬間である。この早熟すぎる美しい若者には、人々を熱狂させ、勇気を与え、時には残酷にすらさせる、不思議な引力があったのだろう。

ギリシャ神話にこのサン・ジュストと似た神がいる。

しばらく国許を離れていたテーバイの王ペンテウスは、帰国して、わが国の有様に驚き、怒っていた。自分の母親と叔母を含めた国中の女たちが家を出て、ディオニュソスを神と崇め信女となって、昼夜となく狂ったように踊りあかしているのだ。

(神であるものか!)
ペンテウスはそう思っていた。
ディオニュソスは今亡き叔母セメレの息子で、彼にとって従兄弟にあたるが、実際に会ったことはなかった。ディオニュソスが神の王ゼウスの子供で、自身も神であるという風評をペンテウスは信じてはいなかった。大方、未婚であったセメレの、子を身ごもったふしだらに対する体のいい言い訳だろう。

ディオニュソスの信者だという者を捕らえたが、奇妙な男だった。女のような長い髪をたらしていてぞっとするほど美しい。男を牢に繋いだが、信じがたいことに知らぬ間に抜け出してしていた。異常な事態にペンデウスは取り乱し城を出ると、なんとその男が目の前に立っていた。男は「狂乱の舞を演ずる女たちの姿をその目で見たくはないか」 とペンテウスにささやいた。
そう言われてみて、とても見たくなった。女たちのはしたない狂態をこの目で見てみたい、という欲望がペンテウスの心を動かした。
ペンテウスは男の言うがまま女たちの目をあざむくために女装して、女たちのいる山へとやって来た。
もはやその時ペンテウスは、その男―ディオニュソスの術中にあって正気をすっかり失っていた。

ディオニュソスはペンテウスの母親アガウエをはじめとした凶暴化した女たちの真っ只中に、この不敬なるペンデウスを投げ与えた。かくてペンテウスの体は女たちに引き裂かれ、その生首は戦利品として意気揚々と彼の母親の手で掲げられたのである。

葡萄酒と演劇の神であり、陽気なイメージのあるディオニュソスだが、一方では人々の心を惹きつけ残酷な行為にも走らせてしまうかなり危険な魅惑を備えている。

もし「ベルばら」でサン・ジュストのシーンがもっと多ければ、日本ではかなり多くの“サン・ジュスト信女”が誕生したように思える。そうしたら、日本のフランス革命史観にも影響を及ぼしたのかもしれない?(米倉敦子

《参考文献》
「変身物語」 オウィディウス作 中村善也訳 岩波文庫
「ギリシア悲劇Ⅳ」 エウリピデス作 ちくま文庫
「ギリシアの神話 神々の時代」 カール・ケレーニイ作 植田兼義訳
「フランス革命史」 J・ミシュレ作 中公文庫

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/10/12 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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