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e-book Japan ベルサイユのばら

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2007年12月28日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

頑固で意地悪?ベルばらの「運命の三女神」

 「ベルサイユのばら」の悪女たちは、百花繚乱、いずれも美人ぞろいだ。デュ・バリー夫人、ジャンヌ、ポリニャック伯夫人。いずれも中身はともかく、外見はとても美しい。

しかし、実はよくよく見ると美人ではない悪女が三人登場している。いや、1組というべきか。それはルイ15世の娘たち、「おばさまがた」ことアデレイド内親王、ビクトワール内親王、ソフィー内親王である。「ベルばら」でのこの「おばさまがた」は、三位一体ともいうべき存在で、身につけているドレス、アクセサリー、そして顔立ちまでまったく同じ。三人そろってひがみっぽく、気位だけは高く、陰険で人の悪口ばかり言っている。おまけに小姑である彼女たちは、純真な幼い王太子妃のアントワネットを焚きつけ、デュ・バリー夫人と争わせる。
そして、ツヴァイクの「マリー・アントワネット」では、この「おばさまがた」は「運命の三女神」に例えられている。

 ギリシャ神話の「運命の三女神」モイライは、三位一体の存在で、いつも一緒に現れる。モイライは単数形ではモイラといい、彼女たちは毎日毎日黙々と同じ仕事をこなす。
第一のモイラ「クロト」はせっせと糸を紡ぐ。第二のモイラ「ラケシス」は慎重に糸を測り、長さを決める。そして、第三のモイラ「アトロポス」は糸を容赦なくばっさりと切り落とす。この糸こそが、人の運命、命の長さを表す糸なのだ。

毎日生まれる人間の数を思うと、さぞハードワークだろうし、女神とはいえ永遠のルーチンワークはさぞつらいだろうと、ちょっと気の毒に思えてくる。仕事が大変すぎて、ストレスがたまるせいか、モイライはかなり頑固でそのうえ陰険で、例え神の王ゼウスの頼みでも、「私たちは忙しいのよ!」 とばかりに一度切ってしまった糸を紡ぎ直すなどということは、断固拒否する。それでいて、わざわざその忙しい仕事の合間をぬって、生まれたばかりの赤ん坊の命が短いことを母親に予言しに行くという、ほとんど嫌がらせのようなことをする。

モイライは非常に権力のある女神たちであり、加えて頑固で融通がきかず、意地悪なのだから、それはもう疎ましいの極致であり、嫌われても当然だろう。
しかし、よくよく調べてみると、そんなモイライも実は時々産婆として活躍していたり、アポロンに酔いつぶされ、だまされて人間の寿命を延ばしてしまったりしている。実はけっこう親切なところや、ちょっと間の抜けたお茶目な面もあるのだ。

さて、ベルサイユの「運命の三女神」は、実際には高慢で陰険なだけだったのだろうか。カストロの「マリ=アントワネット」にしても「一群のひねくれた老嬢」と表現されており、彼女たちの評判は決してかんばしくない。しかし、カストロの記述を読みすすむと同情したくもなってくる。
というのは、「おばさまがた」のボス格であるアデレイド内親王のことを、実の父親であるルイ15世は「ぼろ」とか「ぞうきん」とか呼んでいたそうだ。しかも彼女が若いときにはかなりの美女で、姉妹の中でも一番勝気でプライドが高いというのに…。また、カストロによると、ビクトワール内親王こそが、例の「パンが無ければケーキを食べればいいじゃない(カストロは『ケーキ』ではなく『パイの皮』と書いているが) の真の発言者であると、ド・ボワーニュ夫人という人物が語ったとのことだ。ビクトワール内親王は世間知らずで賢くはないが大変優しい人だったそうで、そのときパンに事欠き飢える人たちに心から同情し、涙を浮かべていたそうだ。

気の毒なこの「運命の三女神」たちは、なによりまずは自分たちの糸こそ上手に紡ぐべきだったのになあと思わずにはいられない。(米倉敦子

《参考文献》
「ギリシアの神話(神々の時代)(英雄の時代)」 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳 中央公論社
「マリー・アントワネット」シュテファン・ツヴァイク著 中野京子訳 角川書店
「マリ=アントワネット」A.カストロ 村上光彦訳 みすず書房

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/12/28 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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