天の涯から―東欧ベルばら漫談
マリー・アントワネットの子守歌 ~海を越えた「みつばちマーヤ」~
「みつばちマーヤ」というアニメをご存知でしょうか。
この作品は、ドイツの児童文学作家ワルデマル・ボンゼルスの原作を、日本のアニメ制作会社がアニメ化し、1975年から76年にかけてテレビ放送されていたもので、後にドイツでも放送され、大変な人気を博したそうです。
そして、この「マーヤ」は、私の夫が子供の頃から「pszczółka maja(プシチュウカ マヤ)」というタイトルでポーランドでも放送され、今なお代表的な子供番組として根強い人気を誇っています。
主題歌は日本のものとは違い、ポーランド語のオリジナル・ソングが流れるのですが、これも母から子へと世代を超えて歌い継がれており、今やポーランドで知らない人はないほどです。
で、ある時、「日本のアニメは流石やねえ。これほど国際的に愛されるんだもの」 とつぶやいたら、周りの人に、
「何を言っているんだ、マーヤはポーランドのアニメだよ!」
と反論されたのには驚きました。
みんな、「みつばちマーヤ」はポーランドのオリジナル・アニメで、TVPという国営放送が作ったと信じて疑わないのです。
私が「これは1970年代に日本で放送されていた、日本のアニメ会社による作品なの。ポーランドのテレビ局が、日本かドイツから輸入したんだよ」 と何回力説しても、誰も信じてくれません。挙げ句の果てには、「日本がポーランドの作品をパクったんだ」とか言われたり……。
それもそのはず、ポーランドで放送されている「マーヤ」のエンドクレジットには、ポーランド人スタッフの名前だけが連ねられ、日本の制作者の名前はいっさい出てこないのです。
たとえば、イタリアから輸入されて、ポーランド語のナレーションで放送されている『ヤッターマン』(1970年代に放送されていたタイムボカン・シリーズの第二作目)には、制作者である「タツノコプロ」の名前が、日本の戦隊シリーズに刺激されてアメリカでも制作されるようになった『パワーレンジャー』のポーランド語版には、共同制作者である「東映」の名前が、ちゃんとエンドクレジットに流されるのに、なぜか「マーヤ」だけは、日本の「に」の字も出てこないんですね。
これは一体どういうことだろうと思い、マーヤを制作した日本アニメーションに問い合わせのメールを書こうとしたのですが、なぜかメールフォームから送信できなくて、今に至っています。いつかまたコンタクトを取ってみたいのですが……。
ともあれ、「みつばちマーヤ」は、ポーランドの伝統的アニメ番組として今も繰り返し放送され、主題歌はお母さんの子守歌として歌い継がれ、すっかりポーランド文化の一部と化しています。
私としては、ポーランドの人に「これは日本のアニメなんだ」という事を知って欲しいのですけど、「『マーヤ』はポーランドの誇るアニメ番組である」と信じている人の方が多いと、夢を壊すようで悪いかもしれません。
「ベルばら」では、娘マリー・テレーズに歌を歌って聞かせていたマリー・アントワネットが、一般の謁見のために席を立つと、
「ママン・レーヌ、いっちゃいや! もうしゅこし、お歌うたってちょうだい」 と泣いてすがりつかれ、後ろ髪を引かれる思いで、娘を置いて行く場面があります。
アントワネットがただ歌うだけでなく、自ら作詞作曲も手がけるような音楽の好きな女性だったことは、近年、これらの楽譜が見つかり、池田理代子先生が『ヴェルサイユの調べ ~マリー・アントワネットが書いた12の歌』としてCDに録音されたことからも明らかです。その中には、『A MA FILLE (娘に)』という楽曲もあり、アントワネットが子供達にどんな歌を歌って聞かせていたのか、想像が膨らみますね。
今みたいに、ビデオやCD、音の出る電子玩具なんて無い時代ですから、母親が歌ってくれる歌は、子供たちにとってこの上なく優しい響きであり、美しい思い出だったろうと思います。
日本の育児書などでは「最近の母親は子守歌を歌わない」と指摘されていますが、少なくとも、ポーランドのお母さんたちは「マーヤ」を歌い、その子供たちもまた母親になったら「マーヤ」を歌って聞かせるのでしょう。
日本ではほとんど忘れ去られたような「マーヤ」の唄が、ポーランドで歌い継がれていくというのも不思議な話です。(優月まり)
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/12/27 11:00:00 天の涯から―東欧ベルばら漫談 | Permalink | トラックバック (0)