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2008年4月22日 (火)

世界史レッスン

いつかきっとわかってもらえる 1843年

  ~アントワネット没後50年~

 19世紀のチェコはまだオーストリア領で、ハプスブルク家に支配されていた。そのチェコのブリュノ(現ブルノ)という町に古くからあるアウグスチヌス修道院へ、1843年、21歳の若者が見習いとして入ってきて、グレゴールという修道名を与えられた。

 貧しい農民の息子だったグレゴールは、苦学して学校を出ていたが、修道僧になったのはさらに勉学を続けたいからだった。というのもこのあたりは昔から牧畜と農業の中心地だったので、僧院内においても動植物の飼育や自然科学研究が推奨されていたのだ。

 グレゴールはやがて司祭となり、僧院での仕事のかたわら独学で自然科学を学び続け、近隣の高校へ数学やギリシャ語を教えに通った。ほがらかで金髪の、学生から人気の高いこの司祭は、しかし教職試験に3度も落ち、ついに正規の教員にはなれずじまいだった。

 幸い29歳から2年間、僧院の資金援助でウィーン大学聴講生となり、本格的に自然科学を学び(ドップラー効果で知られるドップラー博士などの授業を受けた)、いよいよ自分の目指す方向を定める。そして帰郷後、院内の小さな畑でエンドウ豆の交配試験をくり返し、8年という長い年月をかけてまとめた研究成果を、ブリュノの自然学会で発表した。43歳だった。

 反響は――なし。そこで翌年、今度は論文にして発表。反響は――ゼロ。それではと、当時の細胞学の権威などに論文を送るが――無視。

 素人の司祭が田舎の学会で発表した学説など、誰からも歯牙(しが)にもかけてもらえなかったのだろう(時代の先を行きすぎて、理解できる者がいなかったとも言われる)。

 グレゴールはその後も研究を続けようとしたが、周囲の事情がそれを許さなかった。46歳で修道院長になってしまい、職務が忙しくなったことの他に、新たな戦いに足を踏み入れたからだ。ハプスブルク家の意向を受けた政府が修道院に特別税を課したのに対し、グレゴールは真っ向から反対して、その消耗戦に残りの人生の全てを費やさざるを得なかったのである。

 ストレスから異常に肥満し、腎炎と心臓病に苦しみながら失意のうちに世を去ったのは、61歳。彼の論文が「再発見」されるのは、その16年後、発表から数えて35年もたった1900年だ。

 埋もれた天才たる、このグレゴール・ヨハン・メンデルは、死ぬ前、友人に、「きっといつかわかってもらえる」と言ったというが、それにしても何と遅い・・・

 今や世界中で知らぬ者もない「メンデルの法則」であり、メンデル本人も遺伝学の祖として讃えられているのを思えば、運命は彼に冷たすぎはしなかったか。(中野京子)

★中野京子さんの新刊情報★
お待たせしました!「怖い絵」第2作が出ました!
「怖い絵2」(朝日出版社/価格1,890円)

 今回登場する絵は、「世界史レッスン」でも登場した『カルロス2世』の肖像画(「血族結婚繰り返しの果てに」)、ホガースの『精神病院にて』(「観光名所だった精神病院」)や、「神々のプロフィール」でおなじみのギリシャ神話のエピソードを描いたルーベンスの『パリスの審判』など20点。あの名画の印象が変わります。


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投稿者 中野京子 2008/04/22 7:40:45 世界史レッスン | | トラックバック (1)

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