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2008年4月 1日 (火)

世界史レッスン

金持ちはビール、貧乏人はジン 1751年

  ~アントワネット生誕4年前~

 ジンはワインやビールに比べ、歴史の新しいアルコールだ。17世紀半ばにオランダの化学者が、杜松(ジェーニバー)の実から開発した。発音が縮まって、ジンと呼ばれるようになる。

 イギリスへ入ったのはその4、50年後で、たちまち「ジンの時代」を迎える。もともとこの国の生水は飲むに適していなかった(煮沸しなければならない)ので、リンゴ酒やビールを水代わりにしていたのだが、それらの値段が急騰(きゅうとう)し、貧しい人々の手に届かなくなったことから、ジンの人気が爆発したのだ。

 ジンは「1ペニーでほろ酔い、2ペンスで泥酔可能」の宣伝文句どおり、安くて強かった。しかも誰もが自由にアルコール類を醸造・販売してよい、との法令のもと、ロンドンでは6軒に1軒がジンを売るまでになって、ひとり年間ジン消費量63リットル!と言われた。貧困にあえぐひとびとには忘れたい現実があまりに多すぎたのだろう。

 1751年、画家ホガースは「ビール街」と「ジン横丁」という一対の版画で、当時の社会を痛烈に諷刺している。それを見ると――。

 前者のビール愛飲者たちが、清潔な町並みのなか、見るからに豊かなビール腹を突き出し、新聞の政治面を広げながらくつろいでいたり、幸せそうなカップルを形成しているのに対し、ジン横丁はカオスそのものである。

 建物の上階部分が崩壊しかけ、レンガの雨が降っているし、別の建物の屋根裏部屋では首を吊った男、通りの端には棺桶に投げ入れられようとする女、子どもにジンを飲ませる母親、酒代ほしさに商売道具を売り払う大工、犬の餌を奪う男、骨と皮だけに痩せこけたアル中・・・

 薄ら寒いこうした画面で、だがもっとも目を惹くのは、正体なく酔いつぶれた母親の姿だ。鼻を赤くし胸をはだけた彼女は、抱いていた赤ん坊が腕からすべり抜け、階段の下へまっ逆さまに落ちてゆく(たぶん命はないだろう)のにも気づかない。

 ホガースは大げさに描いたのだろうか?いや、そんなことはない。

 この絵が発表される前年、ひとりの女が「自分の子どもの服をはぎ取った」罪で絞首刑になった。彼女は貧民院に入れていた赤ん坊をひき取り、新しく着せてもらっていた服をはいで質屋へ売り払い、ジンを買ったのだ。

 同じ罪で15年前にやはり絞首刑になった女は、子どもを裸にするだけでは足りず、殺してドブに捨てていた。貧窮や階級といった格差社会のゆきつく果ては、こうした地獄であった。(中野京子)

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投稿者 中野京子 2008/04/01 8:16:10 世界史レッスン | | トラックバック (1)

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