世界史レッスン
モーツァルトは何を読んでいたか 1791年
~アントワネット36歳~
ピーター・シェーファーの傑作戯曲『アマデウス』は、映画化(1984年、ミロシュ・フォアマン監督)されて世界的にヒットしたこともあり、軽佻浮薄(けいちょうふはく)なモーツァルト像を決定づけてしまった。
しかしこの作品の主人公は天才モーツァルトではなく、凡庸な作曲家アントニオ・サリエリの方である。サリエリは神に愛されたモーツァルト――アマデウスは彼のミドルネーム(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト)で、「神に愛されし者」の意――に激しい嫉妬を抑えきれない。
サリエリの目に映るモーツァルトは、教養のない下品な愚か者で、ただ音楽だけは神の恩寵(おんちょう)により、鶏が卵を産むようにやすやす量産できている。神はなぜこの自分ではなく、よりにもよってあんな「たわけ」を贔屓(ひいき)するのか?――いつしかサリエリの胸に殺意が芽生え・・・ という物語だ。
これは必ずしも史実どおりではない。現実のモーツァルトがおバカでなかったことは、作品、とりわけオペラと、彼の蔵書が証明していよう。書棚を見ればその人がわかる、と言われるが、モーツァルトの遺品目録に載った書物のタイトルを見れば、『アマデウス』の中で「キャハハハ」と突拍子もない笑い声を上げ、本など一冊も読みそうにないあの若者と実像との間には、かなりの開きがあるであろうと想像される。
モーツァルトの蔵書には、音楽関係の本はもちろん、『ローマ・ドイツ帝国史序論』『フリードリヒ2世遺稿集』『論理学基礎の手引き』などのほか、おそらくオペラ用の原作を探してのことと思われるが、『オウィディウス悲劇集』『モリエール喜劇全集』『オーベロン』(ヴィーラント)『メタスタージョ作品集』『クリスチャン・エーヴァルト・フォン・クライスト全集』etc.も並んでいた。
新作オペラをボーマルシェの『フィガロの結婚』に決めるまでに、「100以上の本を読んで研究した」という彼の言葉は、決して大げさではなかったとわかる。目録にはないが、シェークスピアもほとんど読破した、との証言も残っている。
あと少し長生きしていれば、モリエールの『守銭奴(守銭奴)』やシェークスピアの『ハムレット』が、モーツァルト・オペラとして楽しめたかもしれないのに。残念!(中野京子)
★「世界史レッスン」で読むモーツァルト
・「チンギス・ハーン=義経」説&「マフムート2世の母=ジョゼフィーヌの従姉」説 1808年
・ベートーヴェンはモーツァルトより年上? 1787年
・第九の呪い 1824年
・ヴェニスから来た赤毛の司祭、謎の死 1741年
・フリーメーソンを破門し、トレヴィの泉を造った法王 1738年
・モーツァルト・ジュニアの挫折 1829年
・膝にのったメヌエット — 1762年
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投稿者 中野京子 2008/05/20 8:22:11 世界史レッスン | Permalink | トラックバック (2)
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朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の『世界史レッスン』第112回目の今日は、「モーツァルトは何を読んでいたか』⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/05/post_e35f.html#more
モーツァルトの遺品の中にあった、意外な書籍の数々について書きました。それにしてもやはりこの時代、フリードリヒ大王はスーパースターだったのだな、と感心します。モーツァルトまで『フリードリヒ2世遺稿集』を読んでいたわけなのですから・・・
... 続きを読む
受信: 2008/05/20 8:45:49
» ジェーン・オースティンの読書 トラックバック 中野京子の「花つむひとの部屋」
大阪のテレビに出るため、神戸に一泊してきました。
行きの新幹線から見た富士山が(嵐の直後だったせいか)、とってもきれいで、「ああ、やっぱり日本一の山だなあ」と感動。
さて神戸ですが、ポートピアホテルでバルコニーがついていたので、椅子をだして港の夜景を見ながらワインでも飲もうと、ひとりなのに勝手にロマンティック気分になって出てみると・・・
これまた嵐の影響でしょうか、異様に赤く大きな月がぽっかり眼の前に浮かんでいるではありませんか!!うわあ、怖い・・・月ってこんなに怖いんだ・・・
それ... 続きを読む
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