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2008年7月 1日 (火)

世界史レッスン

『メデュース号の筏』以前に 1817年

  ~アントワネット没後24年~

 南フランスのアヴェロン県は、『昆虫記』で有名なファーブルの生地であり、狼に育てられたといわれる「オオカミ少年」こと「アヴェロンの野生児」が発見された場所でもある。現在の県庁所在地はロデーズ。

 そのロデーズで、1817年、アントワーヌ・フュアルデスという元帝国検事が、ナイフで首を切られた姿で川に浮かんでいた。国中を騒がす「フュアルデス事件」の発端だ。

 実行犯はあっさり突き止められた。売春宿を経営する夫婦と数人の常連客で、彼らは夜半に被害者を無理やり宿へ連れ込み、殺害後、川へ投げ込んだという。宿には確かに血の跡があった。

 数日後、今度は黒幕ふたりが逮捕された。田舎貴族のバスティードと、元株式仲買人ジョシオンで、金目当ての犯行とされた。しかしこの動機は財産家のバスティードには当てはまらない。

 やがて被害者フュアルデスの経歴が明らかになってくる。革命時パリにいて、シャルロット・コルデー(マラーを暗殺した女性)などをギロチン送りにするなど、恐怖政治に深く関与していた御仁だったのだ。

 ここへきてマスコミが騒ぎだし、山ほどパンフレットが印刷され、ああでもないこうでもないと、勝手な憶測が飛びかいはじめる。フュアルデスはルイ16世の息子(17世)がまだ生存している証拠を握っていたのではないか、彼を怨む王党派の一味が復讐したのではないか、etc.

 そうこうするうち逮捕者は15人にも膨れあがり、そのひとりは刑務所内で自殺した。次いで、裁判長の娘が、殺人現場を目撃した、と爆弾発言。

 しかしこの女性はまもなく前言を翻(ひるがえ)し、嘘でした、すみません、と謝ったかと思うと、再び、ほんとうは見ました、男装してその場にいたのです、と言い直した後、しばらく行方をくらまし、見つかると改めて目撃証言をおこなった(最後には回想録を書いて売っている!)。

 てんやわんやの末、黒幕とされたバスティードとジョシオンは死刑になったのだが、実のところ、真犯人だったかどうか今もって判然としない。フュアルデスが憎まれていたため、少なくとも民衆の同情はふたりに集まった。文豪ヴィクトル・ユゴーが『レ・ミゼラブル』の中でこう書いている、「フュアルデス事件では、人々は暗殺者バスティードやジョシオンの味方をした」。

 この事件に大きな関心を示したのは、ユゴーだけではない。画家テオドール・ジェリコーもまたいろいろ調査し、歴史画に仕上げるためのスケッチを4,5枚描いている。なぜ完成させなかったのか?――もっとずっと大規模でもっとずっと絵画的な題材へ、興味が移ってしまったからだ。

 それがあの傑作『メデュース号の筏』であった。 (中野京子)

<関連コラム>
メデュース号のスキャンダル 1816年

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お待たせしました!「怖い絵」第2作が出ました!
「怖い絵2」(朝日出版社/価格1,890円)

 今回登場する絵は、「世界史レッスン」でも登場した『カルロス2世』の肖像画(「血族結婚繰り返しの果てに」)、ホガースの『精神病院にて』(「観光名所だった精神病院」)や、「神々のプロフィール」でおなじみのギリシャ神話のエピソードを描いたルーベンスの『パリスの審判』など20点。あの名画の印象が変わります。


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投稿者 中野京子 2008/07/01 8:26:51 世界史レッスン | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の世界史レッスン第117回目の今日は、「『メデュース号の筏』以前に」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2008/07/post_3686.html  恐怖政治後に起きた奇妙な殺人事件について書きました。被害者は首を切られただけでなく、全身の血を抜き取られていたとの説もあり、ほんとうならかなり猟奇的といえるでしょう。それとジェリコーに何の関係が?−−それは読んでのお楽しみ。  さて今日は本の話題。  『... 続きを読む

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