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e-book Japan ベルサイユのばら

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2008年8月25日 (月)

アニばら不思議発見

ベルばら時代のベストセラー

~「アニばら」に登場するベストセラーから18世紀フランスの出版業界を考えるおはなし~

逃亡したジャンヌが書いた『ジャンヌ・バロア回想録』は、出版元も作者も居所不明の、いわゆる秘密出版で、「売れて売れてどうしようもねぇぜ!」 ニコラスが驚嘆の声をあげたベストセラー。ベルサイユの閣議では、当本の流布を止める手立てはないものかと重役たちが額をよせ話し合っていたが、18世紀のフランスに、ベストセラー本『ジャンヌ・バロア回想録』は果たして実在したのだろうか?そしてまた、当時のベストセラーや秘密出版の実態はどんなものだったのだろうか?

diamond「ジャンヌ・バロア回想録」の売れっぷりに描かれた、闇の販売ルート
アニメの「ジャンヌ・バロア回想録」登場シーンでは、表現の自由が法で認められている現代とは明らかに異なる、厳しい規制下におかれた当時の出版業界の様子が描かれている。

アニメ「ベルサイユのばら」第24話「アデュウ わたしの青春」より~

パリの街で話す人々

― おい、聞いたか。脱走したあのジャンヌが本を出版したんだってな
― 出版元も作者も居所不明のいわゆる秘密出版ってやつだ
― これで、ちゃんとジャンヌには立派な後ろ盾がいるって証明された
― それじゃ、いくら軍や警察がやっきになっても、つかまらないわけだ

次々に本を売りさばく行商人
― さぁ 読んでみなって
― ジャンヌ・バロア回想録、第1巻は、首飾り事件の真相がこと細かに書いてあるぜ。まもなく第3巻、第4巻と続々発売予定…

ベルサイユの重役会議
― 一刻も早くなんとかしなければならん。いくら取り締まっても酒場や裏通り、あげくの果てには、地下道でまで本の売り買いがなされている…

出版元も作者も居所不明の秘密出版、地下道での本の販売、そして作者のジャンヌの元にひそかに送られる売上金…、こういったアニメの描写から想像すると、革命前のフランスでは、販売禁止になった本の販売人や作者は厳しい取り締まりを受けていたが、その一方で、規制の網をかいくぐった「闇の販売ルート」が展開されていたようだ。

ベルばら」原作にも、『オルガン』の作者サン・ジュストが「たちまち発禁処分でおたずね者」になったとある。この『オルガン』は、革命の年1789年に地下出版されたエロティックな風刺歌で、伝統、権威、カトリック教会、国王を批判した作品だ。そして、『ヌーベル・エロイーズ』の作者として原作に登場するジャン・ジャック・ルソーも、著書『エミール』が禁書に指定されスイスに亡命している。

diamond革命前の文芸社会
フランス革命前の秘密出版について詳しく書かれた本に、ロバート・ダーントン著『禁じられたベストセラー』と『革命前夜の地下出版』があるが、ここでダーントンは、秘密出版の実態を考えるにあたり、背景にあったパリの文芸社会の実情を詳しく描いている(以下青字の表現は『革命前夜の地下出版』からの引用)。

18世紀は、フランス全土で教育と識字率の向上が目覚ましく、読み書きのできる人口が増えた。そして、アンシアン・レジーム期において、身分によらず己の才覚によって道を切り開ける唯一の職業である文筆家になり、パリで一旗あげようと、多くの若者がパリにやってきたらしい。彼らの期待していたものは、共通の理想のために働くことで、生活の糧も人間の尊厳をも見出し得る「理想の文芸共和国」の存在だったが、その夢は、上流社会の文芸界独占という現実に、ことごとくうち破られていった。

文芸界で身を立てていくには、出版の独占権を与えられていた国内定期刊行物『メルキュー・ド・フランス』や『ガゼット・ド・フランス』、『ジュルナル・ド・パリ』の仕事にありつくか、上流社会のサロンに出入りするか、アカデミー・フランセーズの会員になるか、いくつかの方法があったが、すでにそれらを手にした上流階級のメンバーは、文芸社会の特権を独占し、他からの参加を排除した。そこに入りこめない文筆家を夢見る者たちを、ヴォルテール「文芸界のろくでなし」と評し、「詩歌と希望を糧に生き、そして極貧のうちに死ぬ」と警告していた。彼らはもちろん著作を売ろうとしたが、出版元は、無名の作家の原稿については手数料をとって印刷だけするか、有名な著述家の原稿を買うか、市場価格の証明された書物の偽版を作る傾向にあった。

この連載で頻繁に登場する、「十八世紀パリ生活誌」の作者メルシェは、パリに膨大に押し寄せたこの文筆業志願者のなかで「たった30人ばかりの紛れもない職業作家だけが文筆で生活を支えている」とする一方で、「文芸界のろくでなし」たちの才能、高潔さを弁護してもいたという。なお、『禁じられたベストセラー』に載っている、大手某出版元の受注資料をみると、彼の作品は、『紀元2440年』が注文数第1位、『十八世紀パリ生活誌』が第4位になっており、限られた資料ではあるが、彼が当時フランスの人気作家だったことがうかがえる。

ロバート・ダーントンの見解で興味深いのは、独占体制に阻まれ、著書も出せず、翻訳や注釈書きといった文芸界の端くれの仕事にもつけなかった「文芸界のろくでなし」たちの存在が、革命に一役買ったと述べている点だ。文芸界を締め出された彼らは、生きていくために、次第に非合法な印刷物の仕事に関わっていった。誹謗文書やスキャンダラスなパンフレットの制作、発禁本の執筆、地下出版の行商など―。そこで展開されたのは、特権階級への痛烈な批判であり、国家や教会の神聖の否定だった。――どん底世界の粗野なパンフレットは、感覚においてもメッセージにおいても、革命的であった。それは、アンシアン・レジームを腹の底から憎み、その憎しみに心うずく者たちの情念を表現していた。

diamondどんな発禁本が売れていた?
ロバート・ダーントンの『革命前夜の地下出版』によると、地下ルートで取引された「禁書」の売れ筋傾向は以下のようなものだ。

反宗教的書物――
・ 例えば、司教と売春婦が登場するストーリーなど。近代的無神論を補強する役割を果たし教会に打撃を与えた

反良俗的書物、ポルノ作品――
・ といっても当時はヴェールのかかったのぞき見的なもの

スキャンダル――
・ 色恋沙汰、犯罪、センセーショナルな事件などの時事的記事で、上流社会の不正行為の裏話を取り上げ、貴族政治を悪として描き出す結果となった。官僚の不正行為を暴く現代の週刊誌と同じような存在かも?

宮廷人や王家といった権力者への激しい攻撃を表した印刷物は、実際よく売れたらしい。
その類の書物や誹謗文書には、以下のようなものがある。

『ルイ15世の贅沢三昧』――
・ 国王の寝所の内奥に触れた露骨な話。10年間に1000人もの若い娘が国王のハーレムに送られ10億リーブルが費消されたと書かれている

『デュ・バリー夫人秘話』『デュ・バリー夫人書簡集』――
・ デュ・バリー夫人の宮廷での横暴ぶり、贅沢三昧と浪費について描かれている

『シャルロとトワネットの恋』――
・ アントワネットのみだらな行為から、ルイ16世の性的不能、アルトワ伯との乱交騒ぎのうわさ話に移っていく誹謗文書

『ヴェールを剥がれた王太子の誕生』―― 
・ 王位継承者の「真の」血筋についてのすっぱ抜き記事を書いたパンフレット

ここには、ルソーの『社会契約論』やモンテスキューの『法の精神』といった偉大な啓蒙思想家の作品は見当たらない。一般市民にうけていたのは、学術書ではなく、いかがわしい本や卑猥な本で、禁書もおおいに読まれていた。そしてこれらベストセラーを作りだしていたのは、確かに、後世に名前が残らなかった三文文士たちだったのだ。

diamondスキャンダルのつくられ方
革命前のこの時代、公に提供されるニュースというのは存在しなかった。報道紙はなく、また、国家に認められた定期刊行物は、検閲官によって非政治的な話題に限定されていて、ベルサイユを中傷する可能性のあるものは書けなかった。

そこで登場したのが、世間の噂からニュースを引き出してくる「情報屋」と呼ばれた人たち。彼らは、パリの特定の場所に集まって、巷のうわさ話や仕入れた情報を交換した。そのゴシップが印刷され、「スキャンダル」となり、お偉方の世界で何が起こっているか知りたがっている、ニュースに飢えたパリの人々の好奇心を満たしていったのだ。

diamondジャンヌ・バロア回想録
話は戻るが、実在したジャンヌ・ド・ラ・モット・ヴァロアは、サベルヌ修道院からロンドンへ脱走した際に、「回想録」と首飾り事件のあらましについて書いた書籍を出版しているので、これが「ベルばら」の『ジャンヌ・バロア回想録』の原型と思われる。それが秘密出版だったのか、そして当時のフランスでベストセラーになったのかはわからないが…。

果たしてロンドンからフランスへ、闇ルートを渡って販売されたのかどうか。しかし、世間を騒がせた首飾り事件について書かれた本なら、ロンドンでもフランスでも充分売れたのではないだろうか?

<参考文献>
ロバート・ダーントン「革命前夜の地下出版」岩波書店
ロバート・ダーントン「禁じられたベストセラー」新曜社

penおまけ
ところで、私にとって18世紀の禁書の“読んでみたい1冊”は、『ヌーベル・エロイーズ』。和訳は絶版らしいですが。オルガン』も和訳はないようです。残念・・!

そして、「ベルばらkids」に登場した本で“読んでみたい1冊”は、2008年6月14日「ロザリーとフェルゼン」の『はじめての盗賊』で登場した本、「成功率100% はじめての告白」。アンドレはやけになってごみ箱に捨ててしまいましたが、オスカルの衝撃的な告白によって2人が結ばれた結果を考えると、ごみ箱からこっそり拾って読んだのはオスカルではないでしょうか?!(智里chisato

お便り募集このコラムをお読みになった皆さんの感想や質問をお待ちしています。 ⇒こちらの「ベルばらKids専用フォーム」からどうぞ。

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2008/08/25 11:00:00 アニばら不思議発見 | | トラックバック (0)

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