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2008年9月16日 (火)

世界史レッスン

「ピナテールこそあはれなりしか」 1863年

  ~アントワネット没後70年~

 ひとつの恋に纏綿(てんめん)とし、ついには身を滅ぼした哀れな女性の例は「ユゴーの娘アデル」で書いた。今回は、同時代・男性版。

 リヨンの旧家ピナテール(ピニャテル)家は、フランス二月革命を逃れてイギリスへ避難し、後、上海(しゃんはい)へ。まず父親だけそこから日本へ渡った。長崎の出島にある外国人居留区で、食料やワインを扱う事業を始めるためだ。

 1863年、18歳の息子ヴィクトール・ピナテールが、長崎へ呼び寄せられた。事業は軌道に乗り、父の死後は彼が商会を継いだ。時代はすでに明治(1866~)へと変わっていた。

 20代半ばを過ぎたころ、このダンディなフランス青年は「丸山」花街の遊女と親しくなる。本気の恋で、とうとう身請け(前借などを払ってやり、遊女をやめさせること)をして、同居した。

 ところが彼女は数年後に肺を病んで死去。ピナテールは悲しみのあまり、恋人の形見である朱塗りの箱枕(はこまくら)を毎晩かたわらに置いて寝、外出時にも持ち歩いたという。やがて人付き合いもほとんど断ち、髪も髭も伸ばしほうだい、風呂へも入らず、世捨て人のようになり、家も「化物屋敷」と呼ばれた由。

 当時、長崎医学専門学校(現長崎大学医学部)教授だった齋藤茂吉が、この名物男を訪ね、「亡き遊女を忘れられず、生きた屍状態になった西洋人」の姿に胸打たれ、いくつか歌を残している。

 長崎の港の岸をあゆみいる

    ピナテールこそあはれなりしか

 寝所(ふしど)には括枕(くくりまくら)のかたはらに

    朱の箱枕おきつつあはれ

 ずいぶんと憐れまれたピナテールだが、意外や、75歳で亡くなったとき、莫大な遺産――当時の金で30万円以上!――も残していたことが判明。外見は貧乏きわまれりという有り様だったので、誰もが驚いた。

 どうやら、ただただ恋しい人の思い出に浸っていたというわけではなく、借家からの上がりをせっせと利回りの良い銀行へ預け替えするなどして資産を運用していたようだ。常に持ち歩いていたという「朱の箱枕」に、高価な簪(かんざし)やら宝石を隠し入れていたとの説まである。

 ずいぶんアデルとは違いますね・・・ (中野京子)

scorpius      scorpius      scorpius

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投稿者 中野京子 2008/09/16 8:20:20 世界史レッスン | | トラックバック (2)

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