神々のプロフィール―ばらに宿った神話―
今なら“男装の麗人”より“女装の麗人”!?
“男装の麗人”とはいうけど、“女装の麗人”とはいわない。
言葉は存在しないが、漫画やアニメでは、女性の格好をした見目麗しい男性が活躍していて、“男装の麗人”に負けず劣らず大人気だ。男性から女性になったタレントさんもテレビでひっぱりだこだし、歌舞伎はもちろん、昔はシェイクスピアのお姫さまは男性によって演じられたのだ。
そしてギリシャ神話にも、実はたくさんの“女装の麗人”目撃談がある。
(1) ヘラクレス
リュディアの女王オンパレに仕えていた際、ヘラクレスは女物の衣装を身にまとい、糸巻棒を手に女性の仕事に従事したという。
筋骨隆々の豪腕の大英雄は、小さすぎる腕輪や靴を壊してしまったというから、可憐な美女とは言いがたかっただろう。ちなみに、オンパレもヘラクレスの獅子の皮を身にまとい、棍棒を手に持ったともいう。その行為になんの意味があるのか疑問だが、“コスプレ”と思うと案外楽しそうだ。
(2) アキレウス
アキレウスを戦場へと連れて行こうとするオデュッセウスの目を欺くべく女装する。
結局、行商人に化けたオデュッセウスの策略により、うっかり武器を手にしてしまったため、正体がばれてしまう。しかし、そうでなければ、オデュッセウスが本当の女の子と彼を区別できなかったのだから、その女装っぷりは相当板についていたことだろう。(⇒「母の予言は聞くもの」参照)
(3) ゼウス
変身名人神々の王ゼウスですから、もちろん女装も……ではなく、彼の場合はやっぱりあくまで“変身”。
自分の娘である女神アルテミスに仕える乙女カリストに恋をしたゼウスは、自らアルテミスの姿に変身。その姿で、アルテミスに純潔の誓いをたてていたカリストに近づき、彼女の貞操を犯す。
自分の娘の姿を騙るなんて、あんまりといえばあんまり。私がアルテミスなら、こんな父親とは一生口も聞きたくないが、純潔の誓いを破ったということでアルテミスが罰を与えたのはカリストのほうであったのだから、理不尽な話。
(4) テイレシアス
テイレシアスの場合も変身。
キタイロンの山中で交尾している蛇を見かけたテイレシアスは、思わず持っていた杖で牝のほうの蛇を打ち殺した。すると、男だったはずのテイレシアスの身体は女に変わってしまい、心までが女そのものなったという。7年後またもや蛇の交尾を目にしたテイレシアスは、今度は牡の蛇を打ち殺した。すると、テイレシアスはすっかり男に戻ったという。
ところで、ゼウスとヘラが、男女とも経験済みのテイレシアスに「男女どちらの快感が大きいのか?」という、ちょっと恥ずかしい質問をした。テイレシアスはこれに「女は男の9倍」と回答。「それみたことか、お前たちのほうがずっといい思いをしているんだ、感謝しろ」と言わんばかりの男子代表ゼウスに、歯軋りして悔しがるヘラは、腹いせにテイレシアスを盲目にしてしまった。
しかし、これってテイレシアスが女の時にたまたま彼(彼女?)にとってよいパートナーを得たということでは?と反論したくもなる。
ところで、『ベルばら』では残念ながら“女装の麗人”は登場しないが、どの登場人物が女装したら一番ステキな“女装の麗人”になりおおせるだろうか。
想像するとなかなか楽しい。
ジェローデルなら少々生意気そうな……いや、香り高き社交界の華になるだろう。
アンドレなら案外瞳うるうるの純情なロザリー系になったりして。
やっぱり女装してなくても女に見えてしまう超美人サンジュストが一番だろうか。
でも、けっこうルイ16世国王陛下あたりが、今時では一番もてるのではないかと思ってしまう。
ぽっちゃりしていて、優しそうで、家庭的で、浪費家ではなく、究極の癒し系。おまけに今流行りの“腐女子”。やっぱり現代日本こそ国王陛下の時代?(米倉敦子)
《参考文献》
・『ギリシア・ローマ神話辞典』 高津春繁著 岩波文庫
・『古代ギリシアがんちく図鑑』 芝崎みゆき著 バジリコ株式会社
・『ギリシアの神話』中公文庫 カール・ケレーニイ著 植田兼義訳
・『もう一度学びたいギリシア神話』 松村一男監修 西東社
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2008/12/12 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | Permalink | トラックバック (0)