世界史レッスン<映画篇>
間抜けな爆破作戦 1864年
本家は火のようなヒロイン、スカーレットだったが、こちらは淑やかな「サザンベル」(「京美人」のようなものかな)の見本エイダ。たった一度キスしただけの恋人を、なんと3年も待ち続ける。
まあ、それはよしとして、この映画で興味深かったのは冒頭の戦闘シーン。1864年夏、実際にヴァージニア州ピーターズバーグで起きた、有名な「クレーターの戦い」が迫力満点に描かれる。
当時、北軍は、南軍の長い塹壕(ざんごう)線を包囲したものの、なかなか決着をつけられず焦っていた。そこである作戦を決行する。南軍の基地までひそかにトンネルを掘り、各所に爆弾を仕掛けようというのだ。
1ヶ月以上もかけて、北軍はみごと掘削に成功、計画どおり爆破もさせた。これで南軍の兵士300人以上が即死し、跡には巨大なクレーターができた。意気上がる北軍は、わっとばかりに攻勢をかけるが・・・・
勝敗というものは、ほんとうに最後の最後までわからない。当初の作戦では、クレーターの中にいる南軍兵士を上から取り囲んで撃ち殺すはずだった。ところが指揮系統に乱れが生じ、北軍兵までがわけもわからずクレーター内へ飛び降り(後ろから仲間に押されて転げ落ちた者も多数いた)、団子状態の混戦となる。
南軍の立ち直りのほうが早かった。彼らは急いでクレーターから這い出て、穴の中で右往左往している間抜けな北軍兵士を、撃ち放題に撃って壊滅させた。
北軍は文字通り、自分の掘った落とし穴にはまってしまったわけだ。結果、南軍の死者1032人に対して、北軍の死者は5300人!
人間のやることだから、全部が全部予定どおりとはゆかないだろうが、それにしてもここまでの失態というのは珍しい。 (中野京子)
コールドマウンテン
監督:アンソニー・ミンゲラ
出演:ジュード・ロウ, ニコール・キッドマン, レニー・ゼルウィガー他
公開:2003年
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お知らせ
人気本「怖い絵」の著者、中野京子さんが朝日カルチャーセンターで、講演を行います。
「怖い絵」で学ぶ西洋史
講師・中野京子
近代以前の泰西名画には、知られざる歴史がぎゅっと詰めこまれています。感性による絵画鑑賞法も悪くはありませんが、西洋史という視点から絵をじっくり見てゆくと、これまでとは全く違うものが見えてくるのではないでしょうか。名画を楽しみながら、歴史の面白さを再発見していただけると嬉しいです。
今回取り上げるのは16世紀のイギリス(ホルバイン)とフランドル(ブリューゲル)、そして17世紀のロシア(レーピン)とオランダ(レンブラント)です。どんな名画が出てくるか、お楽しみに!
日時:4月9日(木) 18:30~20:00
受講料(税込):カルチャーセンター会員2,940円、一般3,570円
場所:新宿住友ビル7階 朝日カルチャーセンター(申し込みは4階受付)
⇒詳しくは朝日カルチャーセンター新宿の講座紹介&申し込みページへ
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投稿者 中野京子 2009/03/10 8:41:26 世界史レッスン<映画篇> | Permalink | トラックバック (1)
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朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第11回の今日は、「間抜けな爆破作戦」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2009/03/post-e7e1.html#more
南北戦争のときの歴史的作戦失敗例「クレーターの戦い」について、『コールドマウンテン』とからめて書きました。
さて、昨年夏出版した拙著『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』ですが、「新書大賞」46作品のうち、21位に選ばれました。ありがと... 続きを読む
受信: 2009/03/10 9:05:33