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e-book Japan ベルサイユのばら

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2009年4月 9日 (木)

ロココの衣装小部屋

デコルテ(胸元)の秘密 ピエス・デストマ

パリの喧騒を離れベルサイユに向かいますと、宮殿の庭園は、まさに春爛漫でございます。
オランジュリーから流れてくるオレンジの花の香り、王妃様の寝室に面した南の花壇に咲き乱れる花、王妃様の内殿に面した中庭を包む穏やかな日差し。それら全てが春を謳歌しているようでございます。
そして、さながら春の女神のように輝いていらっしゃる王妃マリー・アントワネット様。「森と茂みの国」を意味するベルサイユに、これほど相応しい女王陛下はおられないでしょう。

ところで先だっては、御婦人方の心を大きく騒がせた出来事を耳にいたしました。珍しくオスカル・フランソワ様がエリザベス夫人のお屋敷での舞踏会に、しかも、お姉様の嫁ぎ先の遠縁に当たられるという、天使のように愛らしい令嬢を伴って出席なさったというのでございます。
武官であるオスカル様は、さすがにダンスはアンドレ・グランディエに任せていらしたようですが、オスカル様が初めて王妃様以外の方の手を取って現れたとあって、御婦人方は驚きと羨望を隠せなかったようで、多くの御婦人がひとしきり、その令嬢、ロザリー・ラ・モリエール嬢を取り巻いたため、ポリニャック夫人の令嬢、シャルロット嬢はお顔の色を変えていらしたとか。
残念ながら、私、ローズ・ベルタンは舞踏会に招かれる者ではございませんので、とある御婦人から伝え聞いたのでございます。

今日は王妃様のたってのご希望で、オスカル様が宮廷にロザリー嬢をお連れになりました。フェルゼン様と3人、アンドレを従えて広間を通る姿は麗しく、まるで絵から抜け出てきたかのようでございます。
ロザリー嬢は年のころ14~5歳くらい。春の優しいそよ風にも花びらを震わせる淡いピンクの薔薇のような風情でございます。まだ花の蕾のようにあどけないにも拘らず豪華な装いの11歳のシャルロット・ド・ポリニャック嬢とは対照的な、清楚なロザリー嬢の装いは、ベルサイユの華やかな貴婦人の中においても、ひときわ目を引きます。
ロザリー嬢のローブは、あまりデコルテ(胸元)を大きく開けず、袖にもやや長めのアンガジャントをあしらった、おとなしやかなデザインです。

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先に皆様には、女子服ローブ・ア・ラ・フランセーズと、男子服アビ・ア・ラ・フランセーズのことをお話いたしましたが、この男女の服装の大きな違いに、お気づきでいらっしゃいますか。
女子服は「ステイズ」と呼ばれるコルセットでウエストまでを締め付け、身体を覆い隠しながらデコルテや肩は広く開け、肘上までの半袖にレース等の薄い生地をラッフル(幅の拾い大きなフリル)にして3段に重ねたアンガジャントで飾ります。豪奢な布を何層にも重ねたパニエやスカートで足元は靴の先が見える程度です。
それに対して男子服は、首にクラバットやストックを巻き、アビの袖は大きな折り返しのある長袖、さらにシュミーズ(シャツ)の袖口のレースは手の甲の部分までを覆います。しかし、ぴったりとしたキュロットの膝から下は、白く長い靴下に包まれた脚の形がはっきりと見えるのです。
恰幅の良いルイ16世陛下も、すんなりと伸びた御脚は大変に高貴でございます。

宮廷用に盛装したマリー・アントワネット 1775年 J.B.A.ゴーティエ・ダゴーティ画

燦爛たるベルサイユも、蝋燭の灯りが頼りのこの時代、そこかしこが明るいわけではございません。
その中で、豪華なドレスから露になった貴婦人の白く輝くデコルテと肩は、魅力的に殿方の視線を誘います。幾重にも複雑にローブで隠された女性の身体は、殿方にとって神秘なのでございます。
ローブの重さ、そしてステイズで強く締めるため、デコルテは血の気が引き、青く血管が浮き出すほどです。色の白さを際立たせるため、デコルテに血管を描く貴婦人もいらっしゃるのです。
しかし、この重さも窮屈なステイズも、殿方の心を一身に集めて惑わすためなら我慢もできるというものです。
ステイズはウエストを締め、胸のふくらみを下から支える役目を果たしております。この機能はコルセットと同じですが、コルセットはあくまで下着、ステイズは高価な色生地で作られ、刺繍を施した衣装に使えるものでございます。胸を支え、肩甲骨を包むため、ステイズは一人一人の体型にあわせて作ります。コルセットやステイズは固い芯を入れるので、仕立てにたいそう力がいりますから男性の仕立て職人の手で作られます。
ステイズをガウン(ドレス)のボディス(上半身を包む衣服)として着る場合は、ステイズに袖を結びつけ、前面にピエス・デストマを留めつけます。
デコルテの開きは乳房が毀れんばかりの位置で、装飾に使われるレースの合間から胸の谷間が除き見えるようです。
このデコルテを効果的に引き立てるのが、ピエス・デストマ(英名:スタマッカー)でございます。ピエス・デストマは上端部分が直線かカーブを描き、下端はV型かU型になった逆三角形の胸当てで、ドレスにピンで留めつけます。レース、リボン、造花、房飾り、刺繍などで飾られたピエス・デストマは煌びやかで豪華なものでございます。
ドレスと同系色に、刺繍や飾りをドレスと共通に、あえてドレスと全く違う色にと、ピエス・デストマは印象的にデコルテを飾る工夫が様々になされました。首に結んだネックリボンと合わせるものもございます。ネックリボンは、レースや布で作られて、宝石のペンダントやボタン、リボンのボウ飾りをつけました。

マリー・アントワネットの宮廷服 1770年代 ヴィジェ・ルブラン画
フランス調の貴族服 1765年頃 J.B.シャルパンティエ画

ピエス・デストマの中には、上部の端に小さなポケットを作ったものもございます。
何を入れるかですって?
それをお尋ねになるのは無粋というもの。淑女の胸に秘めたものを詮索するものではございません。
ただ、愛する殿方のために機密文書を運んだ勇気ある御婦人もいらっしゃるとか。
恋だけではなく、熱く秘めたる様々な想い。これも秘密を持った胸元といえるでしょう。
まだローブのデコルテを大きく開けることすらないロザリー嬢は、これから、どのような想いを胸元に秘めていかれることでしょう。(安瞳麗

《参考文献》
・「ファッションの歴史」(下) J・アンダーソン・ブラック、マッジ・ガーランド著 山内沙織訳 PARCO出版 2006年5月30日 新装第七刷
・「ファッション 18世紀から現代まで」 深井晃子監修 TASCHEN 2002年
・「性とスーツ」 アン・ホランダー著 中野香織訳 株式会社 白水社 2005年12月25日 第4刷
・「ヴェルサイユ宮殿の歴史」 クレール・コンスタン著 伊藤俊治監修 遠藤ゆかり訳 創元社 2008年3月10日第1版 第3刷
・「「ベルサイユのばら」の街歩き パリ・ベルサイユ」 「ベルサイユのばら」を歩く会編集 池田理代子プロダクション協力 JTBパブリッシング 2006年2月1日五刷発行

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2009/04/09 11:00:00 ロココの衣装小部屋 | | トラックバック (0)

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