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2009年5月12日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

 「今夜は怖ろしい夜。我が運命のように・・・」  1856年

  ~アントワネット没後63年~

 フランスの作家フローベールによって、写実主義文学の傑作『ボヴァリー夫人』が生まれたのは、1856年。これにはモデルがいて、フローベールの父の教え子だった開業医ドラマールの妻が、不倫の果てに借金を重ねて服毒自殺した、いわゆる「ドラマール事件」がそれである。

 映画--『ボヴァリー夫人』(クロード・シャブロル監督、1991年公開)--は原作にほぼ忠実に、淡々と、だが現代にも通じる底知れぬ闇を秘めて描かれる。

 

 人の運命というものは、最初に配られたカードを元手に勝負するようなものだ。どれほど不満であろうと、配り直してはもらえない。持ち札を最大限に利用して戦うよりないのだ。

 ボヴァリー夫人の手持ちカードは、必ずしも悪いものではなかった。大農場のひとり娘。美貌。生来のコケットリー。修道院育ち。読書家。夢みがちでロマンティックな性格・・・・使い方しだいで、幸せな人生も開き得たであろう。

 なのに彼女はカードの出し方、集め方を誤り続ける。かなうはずのない夢にしがみつき、その結果、凡庸(ぼんよう)な田舎医師を名医と思い込んで焦って結婚、幻滅と退屈を不倫とショッピングで解消しようとし、莫大な借金をこしらえたあげく、自死へと追い込まれてしまう。

 映画は、原作同様、ドニゼッティの悲劇的オペラ『ランメルモールのルチア』を通奏低音にしている。この音楽の使い方が抜群にうまく、常に曲半ばで途切れることで、いっそうの余韻を残す。

 たとえばボヴァリー夫人が不倫相手によって、生まれて初めて官能の悦びを知るシーン。彼女の甘い溜め息が、アリアの出だしと重なりかけ、歌手が大きく息を吸い込んで、さあ、歌い始めるか、と思った瞬間、観客は肩透かしをくう。期待させるだけさせて、アリアは歌われず、画面は切り替わる。

 またこのオペラを観劇するシーン(小説では丸々1章分が当てられ、彼女の心の動きが描写される)、やはり観客の予想を裏切り、有名な<ルチア狂乱の場>どころか、カメラは舞台すら映さない。

 ではオペラは割愛されたのかといえば、決してそうではない。この後、何も知らないボヴァリー氏が、妻と将来の恋人を誘って入ったカフェで、劇場から出てきたばかりの客が、さりげなくアリアの一節を口ずさむ、「今夜は怖ろしい夜。我が運命のように・・・・」と。

 まさにこの夜を境いに、ボヴァリー夫人は、まっしぐらに破滅に向かって突き進んでゆく。 (中野京子)

movieボヴァリー夫人

監督:クロード・シャブロル
出演:イザベル・ユペール、ジャン=フランソワ・バルメ他
公開:1991年

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投稿者 中野京子 2009/05/12 8:33:46 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」、第15回の今日は、「今夜は怖ろしい夜。我が運命のように・・・」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2009/05/post-2702.html#more  フランス映画「ボヴァリー夫人」について書きました。  主演のイザベル・ユペールは小説のイメージとは少し違うのですが、無表情であまり何も考えてなさそうなのに、いきなり突拍子もないことをやってのけそうな、危うい雰囲気が実に嵌... 続きを読む

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