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2009年5月26日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

書くことが生きること 1814年

  ~アントワネット没後21年~

 相手に苦痛を与えて性的快楽を得る異常性欲「サディズム」の語源となった、マルキ・ド・サド(サド侯爵)は、暴力と筆禍(ひっか)により生涯の大部分を監獄や精神病院で過ごし、代表作『ジュスティーヌ、あるいは悪徳の栄え』も獄中で書いている。

 『クイルズ』(フィリップ・カウフマン監督、2000年公開)は、そんなサドの、知られざる最晩年の様子を、想像を交えて異様な迫力で描いた作品。

 1789年にサドがバスティーユ監獄に入っていたことは、よく知られている。そのため彼が解放されたのは、革命の発端となった「バスティーユ陥落」によるもの、と誤解している人が多い。実際には、その数日前、シャラントン修道院の精神病院へ移されていた。

 革命遂行後、サドはいったんそこから出ることができたが、その時点ですでにもう20年近く、さまざまな監獄を転々とさせられていた。娼婦に薬を飲ませて鞭打った、というような罪状である。

 やがて彼は政治活動を理由に再逮捕され、またシャラントンに入れられる。資産があったし、何しろ侯爵でもあったから、閉じ込められはしても、最初のうちは特別待遇だったらしい。自由な執筆も許されていた。

 また意外にも、ここでは患者や介護人たちを指導して劇団を作り、脚本を書いて自ら演出もしていた。著名な女優をはじめとした観客もおおぜいつめかけ、こうした活動を評価した人々がサド退院運動をおこなったが、ナポレオンに拒否される。

 けっきょくサドは次第にほんものの狂気にとらえられ、ついに死に至った、というのが事実のようだが、映画は別解釈を取るーー新任の監督官(なんとサディスト!)に書くことを禁じられたため、サドの反骨精神がむくむく頭をもたげるという、抑圧者VS被抑圧者の壮絶な闘いがテーマになるのだ。

 タイトルの「クイルズ(Qills)」は「羽ペン」の意。ペンとインクを取り上げられても、サドは決して諦めない。彼にとっては、書くことが生きることだからだ。

 食事に出てきた鶏の小骨とワインを使い、シーツに書く。それがばれると、今度は鏡を割ってガラスの破片をペンに、自らの肉体を傷つけて流れる血をインクにして、衣服へびっしり書きつらねる。罰として丸裸にされ、鉄鎖(てっさ)につながれるが、それでもサドはやめない。なんと壁に指で、自分の糞便を使って書く!

 1814年、74歳で息をひきとったこの年はまた、ナポレオンがエルバ島へ流された年でもあった。 (中野京子)

movieクイルズ

監督:フィリップ・カウフマン
出演: ジェフリー・ラッシュ、ケイト・ウィンスレット他
公開:2000年

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投稿者 中野京子 2009/05/26 8:43:11 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第16回の今日は、「書くことが生きること」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2009/05/post-fa4a.html#more  マルキ・ド・サドを主人公にした『クイルズ』について。  書くことが権力への反抗であり、また自己の妄執でもあるという凄まじい闘いっぷりに、ただただ圧倒されてしまう。  さて、先週は大阪でまた「ビーバップ!ハイヒール」の収録をしてきました。今... 続きを読む

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