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2010年5月11日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

クララ&シューマン&ブラームス 1856年

  ~アントワネット没後63年~

 学校の音楽室にはよく作曲家の肖像が飾られており、ブラームスといえば、晩年の髭モジャでメタボな姿が思い出されよう。でも若いころの彼は――写真が残っている――たいへんなハンサムで、クララ・シューマンの長女マリーもこう書いているほどだ、「呼び鈴が鳴ったので走ってドアを開けると、絵のように美しい顔をした、長い金髪の青年が立っていた」(拙著『恋の嵐』をお読みください)

 このブラームスとシューマン夫妻の有名な三角関係を描いた『クララ・シューマン、愛の協奏曲』(ヘルマ・サンダース・ブラームス監督、2009年公開)は、監督本人がブラームスの叔父方の末裔(まつえい)にあたる、ということでも話題を呼んだ。

 20歳のブラームスがクララを知ったのは、彼女が34歳のとき。ゆえに恋愛関係にはなりえない、と断言する日本人の評論家がいたが、ちょっと待ってほしい。ブラームスは父親が27歳、母親が44歳のときの子なのだ。そんな偏見などなかったと思われる。

 それはともあれ、この映画の新しさは、ロベルト・シューマンの病状をかなりリアルに描写していること。シューマン・ファンには辛いかもしれない。

 シューマンが欝や幻聴、めまい、アルコール依存、薬物中毒などに苦しんだ末、ライン川へ身を投げ、救助された直後に精神病院へ(自ら)入院して、1856年、46歳で亡くなったことはよく知られている。

 ただし死因は長らく曖昧(あいまい)にされてきた。芸術家気質の繊細な神経のせい、という表現ですまされることも多かった。そこにはむろん、医者の守秘義務もからんでいた。

 しかし一世紀以上経た1994年、ついに主治医の病状日誌が公開され、シューマンが脳梅毒だったことが判明する。感染した日時や相手の名前まで特定された。

 それによれば、罹患(りかん)したのはまだ21歳。クララとの結婚はそのおよそ10年後なので、後期潜伏期に入っていたとされる。つまりその時期になれば他人には感染しにくいので、クララも子どもたちも無事だったらしい。

 映画はそうした新事実をもとに、病気の進行、妻へのDV、さらには精神病院での治療の様子などを執拗に描き、むしろ恋愛よりずっと強烈な印象を残す。

 さて、ドイツ人は、あらゆる芸術のうちドイツ音楽こそ最高位と考えている(誰でも、自分が一番得意分野を一番重要と見なしたがるものだ)。そこでドイツ人音楽評論家の音楽史などを読むと、次のような少し笑える記述(F・ヘルツフェルト『わたしたちの音楽史』)にゆきあたったりする。

 シューマンと、イタリア人オペラ作曲家ドニゼッティは、同じ病気で同じような死に方をしたのだが、前者については「運命に服従して、精神病院にはいった彼は苦しい病ののち、1856年に世を去ったのである」、後者については「その後まもなく気違い(原文ママ)になり、1848年生まれ故郷のベルガモで死んだ」。

 差別じゃないの?  (中野京子)

movieクララ・シューマン、愛の協奏曲

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監督: ヘルマ・サンダース・ブラームス
出演: マルティナ・ゲデック、パスカル・グレゴリー他
公開: 2009年

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2010/05/11 8:51:58 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン映画篇」第38回の今日は、「クララ&シューマン&ブラームス」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2010/05/post-1fe1.html#more  ドイツ映画『クララ・シューマン、愛の協奏曲』について書きました。  この中でロベルト・シューマンが精神病の治療を受けるシーンがあり、医者が言うのです、「脳のこのあたりが冷えているから温めなかればならない」。でもって髪の毛を全部剃った頭... 続きを読む

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