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2010年5月25日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

その遺産の出どころは? 1861年

  ~アントワネット没後68年~

 小説を映画化するとき、時代や舞台を変えて新味を出そうとする例はよくある。しかし残念ながら、新味どころか原作まで台無しになることが多い。稀有(けう)な成功の一例は、シェークスピア『マクベス』を日本の戦国時代へ置き換えた、黒澤明監督『蜘蛛の巣城』だろう。役者たちの、能の所作もしっくりきていた。

 さて、ディケンズが1861年に発表した『大いなる遺産』だが、これまで幾度も映画化されている。19世紀半ばのイギリスの物語を、最新作『大いなる遺産』(アルフォンソ・キュアロン監督、1998年公開)は、現代ニューヨークへ移した。これじゃうまくゆくわけがありませんね!

 なぜうまくゆかないかといえば、ディケンズ時代のヨーロッパに厳然とあった、超えられない階級差というものが消えたことで、何が障害わからなくなってしまうからだ。

 原作では、主人公の貧しい孤児ピップが、ひょんなきっかけで大金持ちの邸宅へ出入りするようになり、美しい少女に出会って恋するうち、富への渇望と階級への意識を呼び覚まされる、というところから始まる。

 このままでは、少女は決して手に入らない高嶺の花だ。だがあるとき匿名の士がピップに資金援助してくれる。おかげで彼は紳士教育を受けられるようになった。

 一方、映画の設定ではーー少女は長じてパリへ留学し(アメリカ人のフランス・コンプレックスがよくわかる)、ピップはあきらめて漁師になる。何年もたち、彼の少年時代の画才を知っているという匿名の人物の後押しがあり、思いがけずニューヨークで個展を開けることになった。

 その後はとんとん拍子で絵が売れ名が売れ、有名人になるピップ。なのに彼女へのプロポーズに踏み出せないまま、別の金持ち男に横取りされ……。

 なんだかよくわからない展開になってしまう。努力だけでは如何ともしがたい階級差というのではなく、単なるインテリ・コンプレックスか?

 もっと問題なのは、ピップに「大いなる遺産」を残す人物の設定だ。謎で引っ張る原作に比べ、映画は大スターを起用しているものだから、ああ、この脱獄囚が後で助けてくれるのね、とすぐわかるのはご愛嬌。しかも今の刑務所システムで、囚人がこんなにリッチになどなれるわけがない。

 ところが原作当時は、流刑地オーストラリアへ流された囚人が、その地で牧羊業を営んで大儲けするという、現代では考えられない状況があった。

 そんな大事な点が無視されているため、映画は原作から果てしもなく遠ざかるばかり。いっそタイトルを変えればよかったかも。 (中野京子)

movie大いなる遺産

20100525

監督: アルフォンソ・キュアロン
出演: イーサン・ホーク、グウィネス・パルトロウ他
公開: 1998年


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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2010/05/25 8:58:48 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第39回の今日は、「その遺産の出どころは?」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2010/05/post-8a1c.html#more  ハリウッド映画「大いなる遺産」について書きました。  さて、2月3月に8回にわたってNHK教育で放送された「『怖い絵』で人間を読む」が、来月6月にNHK BSハイビジョンで、再放送されます。  再放送といっても全く同じものではなく、1時... 続きを読む

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