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2010年6月18日 (金)

神々のプロフィール―ばらに宿った神話―

母への復讐~ロザリーとエレクトラ

 オスカル「春風のよう」といわれた、可愛らしく、心優しいロザリー。けなげな妹キャラとして、守ってあげたい女の子ナンバー1の彼女だが、実際は思いのほかたくましく、おっとりしているようで、かなり激しい一面もある。

 そもそもオスカルの自宅に住むことになったのは、オスカルの母、ジョルジェ夫人にナイフで斬りかかったのがきっかけであった。若い娘が単身、貴婦人を襲うとは、おっとりしているだけではとてもできないことだろう。

 そのとき、ロザリーが狙っていた本当の相手は、ポリニャック伯夫人王妃アントワネットの寵愛を利用して、権力を欲しいままにしていた悪女である。このポリニャック伯夫人は、ロザリーの養母を馬車でひき殺したのだ。

 ロザリーはポリニャック伯夫人への復讐に燃える一方、実母である“マルティーヌ・ガブリエル”に出会えるその日を夢みていた。しかし、ポリニャック伯夫人こそが、実母“マルティーヌ・ガブリエル”その人だったと知ることになる。
 実母と知って怒りが収まるのかと思いきや、その後、かえってロザリーはポリニャック伯夫人への反感を過剰に表現するようになる。
 実母だからといってポリニャック伯夫人のしたことは許せない。それはそうだろう。
しかし、それだけではなく、本当は母娘だからこそ、なお許せないということがあるのではないだろうか?
 自分の母親だからこそ、こうあってほしいという期待を裏切られた場合の失望と憎しみは深いものなのではないだろうか?

 ギリシャ神話の中で、そんなロザリーとよく似た娘がいる。
 彼女の名前は、エレクトラ。父親はトロイア戦争でのギリシャ側の総大将アガメムノン、母親はトロイア戦争の火種となった世界一の美女ヘレネの姉妹、クリュタイムネストラである。
 父親アガメムノンはミュケナイの王であり、両親の間にはエレクトラの他に、姉のイピゲネイア、弟のオレステスがおり、本来は権力と富のある幸せな家庭といえただろう。しかし、トロイア戦争がエレクトラの人生の全てを変えてしまう。
 アガメムノンはトロイア戦争の際、イピゲネイアを戦勝祈願の生贄にしてしまう。このことをクリュタイムネストラは恨み、愛人アイギストスと共謀して、トロイアから帰還した夫を殺害してしまったのだ。
 そして、その後クリュタイムネストラはアイギストスと結婚する。エレクトラはというと、貧しい農民と結婚させられ、宮殿から追い払われてしまったのだ(さらにその後、クリュタイムネストラとアイギストスはエレクトラの手引きによりオレステスに殺害されてしまう。)

 エレクトラの物語は、悲劇作家エウリピデスの作品が有名だが、そこでのエレクトラをみていると、クリュタイムネストラが娘を自分から遠ざけた理由がよく分かる。
 クリュタイムネストラは夫アガメムノンを殺害したことに後ろめたさを感じてはいない。しかし、自分の罪をまっすぐな目で容赦なく責め立ててくる実の娘には耐えられなかったのだろう。
 実行犯となる弟のオレステスは母殺しへの迷いと苦しみを常に訴えているのに対して、エレクトラの意思には少しの迷いはない。イピゲネイアのことがあっても、悪いのは父アガメムノンではなく、母クリュタイムネストラ。ましてや、自分とオレステスという残された子どものことをクリュタイムネストラは考えていないと彼女を責め、その死を望む。
 確かにそれは正論である。
 だが、追い出したにせよ、クリュタイムネストラはエレクトラを殺さなかった。ポリニャック伯夫人が捨てたにせよ、ロザリーを産んだように。
 そこに母親としてのぎりぎりのわが子への愛情を感じずにはいられないのだが、娘としては生かすだけでは足りないのだ。母親なればこそ、わが身を犠牲にしてでも、自分を誰よりも愛し、守ってくれる人であってほしい、それが娘の本音ではないだろうか。
なにはともあれ、どちらの娘の怒りにも、その裏には切ないほど母親の愛情を求める気持ちが隠されているように思える。(米倉敦子

《参考文献》
『ギリシア悲劇IV』 エウリピデス著 ちくま文庫
『もう一度学びたいギリシア神話』 松村一男監修 西東社

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2010/06/18 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | | トラックバック (0)

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