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2010年8月31日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

道を踏み外した女性 1847年

  ~アントワネット没後54年~

 舞台と映画はそれぞれ文法が違う。ましてオペラの映画化の場合、歌唱力の他にスクリーン上でのビジュアル的説得力も必要になる。パヴァロッティのような巨漢が二枚目役を演じるのは、客席から遠い舞台だからこそ可能なので(それに何と言ってもあの輝く美声が全てを忘れさせる)、大アップの映像だとやや苦しい。

 単にオペラ舞台を映したものではなく、オペラと映画の奇跡的合体と呼べる、ほとんど唯一の成功例が、『トラヴィアータ / 椿姫』だ(フランコ・ゼッフィレッリ監督、1982年製作)。

 成功の一因は、ヒロインを演じ歌った美貌のソプラノ歌手、テレサ・ストラータスの魅力によるのは言うまでもないだろう。「歌う女優」と賞讃(それとも揶揄?)された彼女の存在感は圧倒的で、モデルとなった実在の高級娼婦マリー・デュプレシその人が蘇(よみがえ)ったかのようだ。

 マリーがパリの大邸宅で、23歳の短い生を終えたのは、1847年、死因は肺結核だった。すでに破産していたため、まだ息を引き取ってもいないのに、ベッドの天蓋を債権者たちに持ち去られたという。

 哀れな彼女の死を知ったかつての恋人、デュマ・フィス(アレクサンドル・デュマの息子)は、憑(つ)かれたように自分たちの思い出を小説化した。これが評判を呼び、やがて劇化され、たまたまパリに来ていたヴェルディが見て、オペラ化を決めたのだ。

 いわゆるモデル小説なので、当時のパリっ子は皆、登場人物と実在人物を一致させていた。オリジナル・タイトル『椿をもつ婦人』は、マリーが椿の花を愛していたこと、彼女が劇場にあらわれるとき、ふだんは白い椿、月に数日だけ赤い椿(要するに、この日はお客をとりません、との合図)を人目につくところへ置いたことに拠(よ)る。

 一方、そうした下品さを嫌ったヴェルディは、タイトルを『ラ・トラヴィアータ(=道を踏み外した女性)』へと変えたばかりでなく、極貧の女性が自活することの困難な時代に、誰がマリーを責められるのか、との大いなる同情を音楽に込めたのだった。

 恋人の父から別れるよう説得されたヒロインが、「ああ、このかたは、一度道を踏み外した女を決して許してはくださらないのだ」と嘆くとき、観る者もまた、がちがちの身分制社会の非情さに涙せずにおれない。

 --本作には、オペラ演出家でもあるゼッフィレッリ監督によって、新解釈がほどこされている。前奏曲ですでにヒロインは死の床にあり、幕が開いて華やかな夜会となるシーンそれ自体が、熱にうかされた彼女の過去の記憶なのだ、と……(このみごとな解釈は、現在に至るまで世界中のオペラ座で採用されている)。

 オペラは苦手という人でも引き込まれること間違いなしの映画。必見。見た後はきっと、生の舞台への興味もわくでしょう。 (中野京子)

movieトラヴィアータ/椿姫

20100831 監督: フランコ・ゼッフィレッリ
出演: テレサ・ストラータス他
公開: 1982年

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2010/08/31 8:34:25 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」45回目の今日は、ストラータスとドミンゴの「トラヴィアータ/椿姫」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2010/08/post-0ef0.html#more  ドミンゴがもうあとほんのちょっと若々しかったら、完璧だったんですけど(でも歌は最高!)。  アサヒ・コムでは、拙著「「怖い絵」で人間を読む」の読者プレゼントもはじまりました。ご応募くださいね!⇒ http://astand... 続きを読む

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