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2010年9月28日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

良き師に導かれて 1722年

  ~アントワネット生誕33年前~

 ピョートル大帝がオスマントルコへ侵攻し、スペイン王女がルイ15世の婚約者としてフランス入りし(けっきょく破談)、「イースター島」がオランダ人に「発見」された1722年、日本は徳川吉宗の御世、享保7年だった。

 江戸の町医者、小川笙船(おがわしょうせん)が、目安箱に「貧困者のための施薬院(せやくいん)設置の意見書」を投函したところ、その年のうちに小石川に養生所が設立され、笙船自身に責任がまかされた。この笙船をモデルにしたと言われるのが、『赤ひげ』(黒澤明監督、1965年公開)。

 物語はこう始まるーー

 長崎で最新医学を学んだばかりの野心的な青年、登が、見習いとして小石川養生所の門をくぐる。彼は幕府の御番医になるつもりだったので、たとえ短期間とはいえ、こんな貧民たちの施設で働くなど真っ平だった。

 そうした登の不満を、所長は一瞥しただけで見抜く。髭が赤っぽいため「赤ひげ」と呼ばれる、眼光鋭い初老の所長は、登がふてくされて仕事しないからといって、別に咎めるでもなかった。

 日がたつうち、だがいつしか登も養生所の人々ーー下働きの者や患者たちーーに関心の目を向けはじめ、貧困と病に打ちのめされている彼らの、それぞれの人生を知ってゆく。

 座敷牢に閉じ込められた色情狂の美女、皆から慕われた大工が死に際に告白したやるせない過去、無言のまま長い苦悶のうちに逝った老人の娘は、父の壮絶な人生を悲鳴のように語る……。

 登はまた、「赤ひげ」の人間的器量、正義を貫こうとする気迫にも魅せられてゆく。この医師は、極貧の者を無料で診る一方、飽食で太りすぎの旗本に対してはろくに診療もせず説教だけで、大金をふんだくる。襲いかかってきたヤクザは軽々と投げ飛ばし、危険をおして恵まれない子を救う……。

 やがて登は、置屋で苛めぬかれて失語症になりかけていた少女をまかされる。真剣なケアの後、少女は愛による安心感を知り、次いで独占欲と嫉妬を知り、最後は利己を越えて愛する術を知るのだった。

 少女のその救済過程は、登の心の浄化過程でもあった。ちっぽけなエリート意識や傲慢は消え、彼もまた真の生き甲斐とほんとうの幸福を知る。第二の赤ひげがここに誕生したのだ。

 良き師が弟子を導く物語である。しかし良き師、必ずしも皆を導けるわけでないことは、この映画の冒頭、登と入れ替わりに養生所を去って行った先輩見習い医師が、赤ひげの悪口を捨て台詞として、いかにもせいせいしたといわんばかりだったことからもわかる。

 どんなに良き師でも、良き可能性を秘めた弟子でなければ導きようが無い。良き魂が良き魂を呼び寄せ、良き魂は良き魂に引き寄せられるのであろう。 (中野京子)

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 監督: 黒澤明
 出演: 三船敏郎、加山雄三他
 公開: 1965年

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□中野京子さんの講演情報をご案内します。

★『残酷な王と悲しみの王妃』(集英社)出版記念講座
薄命の王妃マルガリータ(講師=早稲田大学講師 中野京子)

日時:2010年10月21日(木)18:30-20:00
受講料:会員 2,940円(一般 3,570円)
場所:朝日カルチャーセンター

お便り募集このコラムをお読みになった皆さんの感想や質問をお待ちしています。 ⇒こちらの「ベルばらKids専用フォーム」からどうぞ。

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2010/09/28 8:51:56 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第47回の今日は「良き師に導かれて」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2010/09/post-60c1.html#more  黒澤明の「赤ひげ」について書きました。  この映画は拙著「恐怖と愛の映画102」でもとりあげました。ラスト近く、登の母がワンシーンだけ登場し、人間として大人になった彼に向かい、こう言うのです、「おまえはなんだか人が変わったようにさっぱりして、まる... 続きを読む

受信: 2010/09/28 9:31:47