神々のプロフィール―ばらに宿った神話―
偉大なる女帝の光と影
『ベルサイユのばら』本篇では登場しないが、『ベルばらkids』で時々登場する豊かな黒髪の美女。その人こそ、ロシアの女帝エカテリーナ2世である。
エカテリーナは、ドイツ生まれで、一滴もロシアの血を持たないし、皇太子であるピュートル3世の妃にすぎなかった。しかし、頭脳明晰で、生まれながらの王者の器に恵まれた彼女は、夫を退け女帝となり、領土を拡大し、大帝と称された。
マリー・アントワネットの母親であるマリア・テレジアと同じく“女帝”なのだが、マリア・テレジアと違う点は、女帝の地位につくまで大変苦労したことと、夫との仲が最悪であり、マリア・テレジアが恋愛結婚した夫と添い遂げたのに対して、晩年にもたくさんの恋人をはべらしたということである。また、エカテリーナの世継ぎである息子パーヴェル1世とは不仲で、彼女は息子によって暗殺されたという説まであり、パーヴェル1世は母の死後、彼女の政治を全否定した。
マリア・テレジアと違って、親の後を継いだわけではなく、跡継ぎとは確執があった、まさに一代かぎりの非凡な女性君主、エカテリーナ1世。
彼女とよく似た人物が、ギリシャ神話の中にも存在する。
彼女の名は、セミラミス。その特異な存在感により、演劇や歌劇の題材となっている、伝説の人物だ。
セミラミスは、長じてバビロンの女王になるのだが、元々は女王どころか捨て子だった。
彼女の出生についての伝説はこうである。シリアのアスカロンに住む、上半身は人間で、下半身が魚の、ちょうど人魚姫のような女神デルケトーは、愛の女神アフロディテを怒らせたため、カユストロスという男性を愛するようになり、娘セミラミスを産み落とした。しかし、デルケトーはそのことを恥じ、カユストロスを殺害し、自分は湖の底へと身を沈め、セミラミスを捨ててしまった。捨てられたセミラミスは、初めはなんと鳩によって育てられたというが、後に羊飼いに拾われる。
そして、羊の検分にやって来たバビロンの宰相オンネースに見初められ、彼の妻となったのだ。
セミラミスは美しいだけではなく、大変頭が良かったため、その才知によりオンネースを出世させ、オンネースはこの美人の「あげまん妻」に夢中だった。夢中なあまり、バビロンの王ニノスに従って、バクトリアに兵を進めた際に、セミラミスを戦場に呼んでしまった。それは、オンネースにとって大変な失敗だった。バクトリアをなかなか攻め落とせないのを見たセミラミスは、山側から都を攻めよと王に進言し、見事バビロン軍を勝利に導いた。
セミラミスがただ美しいだけならば、きっとニノス王もそこまで無茶はしなかったのだろうが…ニノス王はセミラミスの美貌、そして、並々ならぬ才知にすっかり惚れこみ、オンネースに自分の娘と彼女を交換するようにと迫った。オンネースはそれを拒否したが、ついに王は、「言うことを聞かないなら、お前の目をくりぬいてやるぞ」と威嚇するという、強硬手段にでた。オンネースは、もはやこれまでと絶望し、自殺してしまい、セミラミスはついにバビロンの王妃となった。
王との間に、ニニュアスという名の王子も生まれたが、しばらくして王は亡くなり、セミラミスは女王となった。セミラミスは全アジアを征服し、多くの都市を建設、世界七不思議の1つである、バビロンの空中庭園まで建設するという、偉業を成し遂げた。
しかし、一方で、セミラミスは大変好色だったともされており、その点もエカテリーナ2世とよく似ている。
そして、その人生の最後もエカテリーナ2世に似ていて、息子ニニュアスと確執があり、彼に謀殺されたとも、彼の謀叛を察知して王位を譲ったとも言われている。
さらにいうと、エカテリーナ2世は、自分は手を下していないものの、夫を結果的に殺したという説があるが、セミラミスも夫であるニノス王を毒殺したという伝説が存在する。
2人の女帝の眩すぎる栄光。その光には、あまりにも大きな影がつきまとっていたのである。(米倉敦子)
《参考文献》
『女帝エカテリーナ』 原作者アンリ・トロワイヤ 著者池田理代子 中央公論社
『ギリシア・ローマ神話辞典』 著者高津春繁 岩波書店
★お便り募集★このコラムをお読みになった皆さんの感想や質問をお待ちしています。 ⇒こちらの「ベルばらKids専用フォーム」からどうぞ。
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2011/01/28 11:00:00 神々のプロフィール―ばらに宿った神話― | Permalink | トラックバック (0)