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2011年5月17日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

恋仇を蹴落とすには 1859年

  ~アントワネット没後66年~

 ドイツの文豪ゲーテの戯曲『ファウスト』は、フランス人グノーによって1859年、オペラ化され、パリで初演された。人気演目となり、ニューヨークでもその10数年後の70年代初頭、NY高等音楽院(まだメトロポリタン歌劇場は建設されていない)で初演されている。

 『エイジ・オブ・イノセンス』(マーティン・スコセッシ監督、1993年公開)は、この時の『ファウスト』上演から幕があく。桟敷席でオペラを見ながら主人公ニューラントは、自分の婚約者メイが、舞台の無垢なヒロインによく似ている、守ってやらねば、と思う。そこへひとりの女性があらわれ…。

 --三角関係の物語である。ニューラントの前にあらわれたのは、スキャンダルまみれの女性エレン。彼女のような立場の者が、堂々とオペラを見にくること自体が恥知らずとされていたから、劇場中のオペラグラスがエレンに集中する。

 それにしてもそのスキャンダルたるや、現代人に言わせれば、信じがたいほど不当だ。なぜならエレンは親の言いつけでヨーロッパの貴族のもとへ嫁いだのだが、夫の放蕩(ほうとう)に耐えかねて故郷へもどり、離婚訴訟中、というにすぎないからだ。

 当時のニューヨークの人口、およそ100万。すでに世界的大都市とはいえ、歴史の浅い新興の町だ。上流階級人士とはいっても、旧大陸の貴族の目からは単なる商業成金にすぎない。当人たちもそれは承知なので、競ってヨーロッパ社交界を模倣(もほう)し、本家より格式ばった慣習に我と我が身を縛っていた。

 強く激しく惹かれあうニューラントとエレン。だが洗練の極みの欺瞞(ぎまん)的な小世界は、離婚した女性を許さないばかりか、婚約破棄をも許さない。次第にエレンは息詰まる人間関係に圧迫され、再びユーロッパへ逃げ出さざるを得ない。

 ニューラントは彼女を追うつもりだった。その前にしかし純真なメイを傷つけないよう、婚約を解消しなければならない。打ち明ける機会をさぐっているうち、何も知らないメイは、挙式の日取りを公表してしまう。こうなっては万事休す、紳士としての義務を果たすほかない。

 そう、ご明察どおり、メイは何も知らないどころではなかった。ニューラントがエレンへの恋心を自覚するよりもっと前に、メイは気づいていた。彼が愛するのはエレンで、自分に対しては妹のようにしか感じていないのだ、と。

 メイが恋仇を出し抜くには、あくまで何も知らないふりをすることだった。いったんニューラントに打ち明けられてしまえば、淑女としては黙って身を引くしかなくなる。だから絶対に悟られてはならない、ふたりの恋に気づいているなどとは。

 誰もがメイを、『ファウスト』のヒロインと同じ、清らかでイノセントな少女と信じていた。だからあどけない言動を失わず、愛し愛されている婚約者を演じ続け、ついにニューラントの妻の座へおさまる。

 それにしても、夫の心の中にいつまでも別の女性が住み続けていることを承知しながらの結婚生活が幸福と呼べるものであろうか?

 映画はしかし、彼女が幸せだったと告げている。そしてニューラントとエレンが不幸だったと告げている。ああ…。 (中野京子)


movieエイジ・オブ・イノセンス

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監督:マーティン・スコセッシ
出演: ダニエル・デイ・ルイスミシェル・ファイファー
公開:1993年

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   ~ギリシャ神話篇

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2011/05/17 8:47:25 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第62回の今日は、「恋仇を蹴落とすには」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2011/05/post-2536.html#more  切ない恋愛映画「エイジ・オブ・イノセンス」について書きました。 ...... 続きを読む

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