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2011年7月26日 (火)

世界史レッスン<映画篇>

バカ殿抹殺指令 1844年

  ~アントワネット没後51年~

 前回の『武士の家計簿』から2年後の1844年。加賀藩のソロバン侍はいまだ借金返済に悪戦苦闘だったが、江戸では水野忠邦が前年にもう罷免(ひめん)され、改革は半ばで頓挫(とんざ)していた。そして明石藩(10万石)では、ひとりのバカ殿が周囲を恐慌に陥れていた…。

 『十三人の刺客(しかく)』(三池祟史監督、2010年公開)は、この殿を亡きものにするよう指令を受けた、13人の武士たちの死闘の物語である。

 まず「殿ご乱心」の様が、かなりどぎつく描かれる(なので本作はR12指定だ)。虫を踏みつぶすようにサディスティックに人を殺してゆく、病的な独裁者の無気味な迫力を、意外や、稲垣吾郎が存在感たっぷりに演じて、すばらしい。

 そして、こんな殿でも忠義を尽くすのが武士の道、と思い定めた文武両道の御用人(ごようにん)が大軍を指揮し、知恵をめぐらせ、命を賭して彼を守る。

 --敵が強くないと映画は面白くない。200人対13人という数だけではなく、相手の作戦の裏をかく頭脳戦をも含めた強さだ。『十三人の刺客』はこの時点で半ば成功したも同然。我らが13人は、はたしてこの強敵にどう戦いを挑むのか。興味津々の幕開けである。

 結果、小さな失点や不満は数あれど、全体的には黄金期の娯楽時代劇映画を彷彿とさせる出来となった。出演者は皆、真剣の刀の重さをじゅうぶん感じさせる動きをするし、居合い抜きの師匠と若き門弟の、衆道(しゅどう)のエロスまできっちりおさえられている。日本映画もまだなかなかやるではないかと、嬉しくなった。

 さて、本作における狂気の殿の名は、斉韶(なりつぐ)。現将軍の腹違いの弟にして、明石藩の藩主、まもなく老中職につく身、との設定だった。史実と違う。

 ほんものの斉韶は明石藩7代目藩主で、ちゃんと66年の天寿を全うしている。ただし政治がらみで、自分の嫡男(ちゃくなん)がいたにもかかわらず、前将軍の子息にして現将軍の弟、松平斉宣(なりこと)を養子にもらい、彼に跡を継がせねばならなかった。

 これは幕府からの押し付けであろう。なにしろ斉宣の父というのが、山ほどの側室たちに50人以上の子を生ませた、あの11代将軍徳川家斉なのだ(「世界史レッスン」第34回「生ませた子どもは360人」参照)。

 そしてこの8代目明石藩主斉宣に、とんでもないエピソードが残されている(出典『甲子夜話(かっしやわ)』)。参勤交代中に尾張藩領内で、行列の前を横切った3歳の幼児を、おおぜいの助命嘆願を無視して切捨て御免にしたという。つまり映画のモデルは斉宣のほうだったのだ。

 斉宣は20歳で病死したことになっているが、おそらく毒殺でもされたのだろう。刺客を放って乱闘になり、双方、死屍累々の惨状を呈するよりよほど毒殺のほうが成功度が高く、秘密も保たれる。映画より現実のほうが、はるかに合理的解決がとられたわけだ。 (中野京子)

movie 十三人の刺客(しかく)

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 監督: 三池崇史
 出演: 役所広司 山田孝之、他
 公開: 2010年

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bell中野京子さんの著書

書名:印象派で「近代」を読む
出版社:NHK出版(216ページ)
発売日:2011年6月8日
価格:1050円(税込)
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2011/07/26 8:47:43 世界史レッスン<映画篇> | | トラックバック (1)

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 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第67回の今日は、「バカ殿抹殺指令」 ⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2011/07/post-5c0f.html#more  前回に引き続き日本の時代劇をとりあげました。かなり男性好みと思われ...... 続きを読む

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