榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
華やかで感動的だった『宝塚舞踊会』
第47回『宝塚舞踊会』
10月20日 宝塚大劇場
毎年一度、秋に行われる『宝塚舞踊会』。洋楽で日本舞踊を踊るのが宝塚だが、ここは邦楽を伴奏に、和物らしい端正な踊りを見せてもらえる場でもある。出演者は、専科、花組、雪組、宙組、総勢45名、約4時間かけて12演目を踊るというプログラム。
今年の話題は、なんといっても3年ぶりという春日野八千代の登場。それに、宝塚きっての舞踊の名手松本悠里や、雪組人気男役の水夏希が、何を踊ってくれるのかも話題の一つ。また、生徒たちのレッスン発表会でもあるので、芸歴77年の春日野八千代から、まだ数年というキャリアの下級生たちまで、巧拙を超えて参加できる素晴らしい場でもある。
オープニングは雪組若手たちの「元禄花見踊」。上野の山の桜の下で、若衆や町娘が賑やかに戯れる花見の様子が、なかなかサマになっていて楽しい。続いて花組・宙組娘役たちが、琴の名曲として知られる「千鳥の曲」を可憐に舞う。そして花・宙の男役たちの若衆ぶりが美しい「水仙丹前」、どれも下級生たちの初々しさと緊張感が舞台にみなぎっている。それだけに観る側も力が入るが、踊り終わったあとの清々しい笑顔には胸がいっぱいになる。
そんな下級生たちに比べると、専科をはじめとするベテランの踊りは、まさに芸。千雅てる子と鈴鹿照の「吉原雀」や、邦なつきと一原けいの「茶筅売」など、生活感あふれる動きで、軽演劇を観ているような感覚だ。そのベテラン2演目の間で、まだこなれてはいないものの伸び伸びと踊ってみせたのが、悠未ひろと北翔海莉の「橋弁慶」。悠未の猛々しい弁慶、北翔の爽やかな牛若丸は、それぞれニンに合った役どころで、芝居でも観てみたいと思わせてくれた。
休憩をはさんで後半は大作が続く。
絢爛豪華な衣装をまとっての「鶴亀」は、古代中国の祝舞。飛鳥裕・五峰亜季というベテラン2人に、若手男役の音月桂が加わっているが、ワザでも大きさでも引けをとらないところは、まさに日本物得意な雪組育ち。引けをとらないといえば、続いての「三社祭」で、箙かおるの胸をかりて、堂々の踊りっぷりだった愛音羽麗。善玉悪玉を擬人化した激しい振りは、まさに体力勝負というところ。日本舞踊の持つ多様な魅力をあらためて示す一場面だった。そんな激しい踊りのあとには、呼吸を整えるかのように、ファンタジックでおおらかな「二人猩々」。萬あきら・一樹千尋・大伴れいかの3人が、酒好きな猩々と酒売りのやりとりを、重厚にそして長閑に見せてくれた。
そして、いよいよ舞踊会もクライマックス、ここからはソロで3場面が続く。
まずは「玉屋」。水夏希が下手花道から華やかに登場、シャボン玉売りだけに玉模様の日傘を差しているのがかわいい。子供たちを呼び集める様子や、蝶々の玩具を使ってのおどけたしぐさを、軽妙に踊ってみせる。途中で両肌脱ぎになると赤の襦袢に変わるのだが、それがなんとも粋で美しい。江戸情緒たっぷりのテンポのよい動きの中にも、辻商人ならではの哀歓をどこか漂わせながら、しなやかにきりりと踊り上げてみせた。
さて、トリ前「藤娘」をつとめるのは、舞踊の名手、松本悠里。六世尾上菊五郎が作りあげた名作舞踊で、五変化舞踊をもとにしているだけに、引き抜きあり小道具あり、段取りも多い。だがその段取りを、優雅に流れるようにこなしていく所作の美しさは、まさにキャリアの凄みというべきだろう。しかも藤の花の精の恋心を伝える可憐さ、酔って興に乗る色っぽさ、変化するという言葉を踊りという力で実感させてくれる、それが松本悠里の名手たる所以なのだ。
そして、なんといっても圧巻だったのは、春日野八千代演じる「なみだ生島」。思わず演じると書いてしまったが、踊りであって踊りにとどまらない、指先ひとつ、肩をわずかに動かすだけでも、想いが心情が伝わってくるのだ。岩にもたれている嘆きの風情、恋人を思い出して扇を引き裂くさま、流人となった生島の無念がまさにそこに浮かび上がる。舞踊とは形なのだが、形は心を伝えるためにあるという、もっとも本質的なことをまざまざと見せてくれた、春日野八千代の「生島」だった。
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そんな感動をかみしめているうちに、恒例の楽しいフィナーレが始まった。黒紋付に緑の袴という正装で、ほとんどスッピンに近い生徒たちが、毎回思いがけない曲を踊ってくれる。今回はなんと盆踊りバージョンで賑やかに、と思いきや曲はいつしかタンゴに。やがてミラーボールが回りだし、水夏希、愛音羽麗、悠未ひろ、音月桂、北翔海莉らが緑の袴で男前にタンゴを踊る豪華なフィナーレ。その勢い?からか、始まって以来というカーテンコールまであり、まさに感動的な『宝塚舞踊会』となった。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/10/23 17:44:21 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)