榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
真飛聖主演のサイコ・サスペンス 花組『MIND TRAVELLER』
主人公は狙撃され病院に運び込まれた1人の男。記憶喪失となった彼はジョン・スミスと名づけられ、女医のパメラ・オースティンが担当医になる。だが、病院のリチャード・モリス博士は、彼に新しい治療法を試みることを考えていた。手術を承諾したジョンは、その前に失った記憶を取り戻すために、パメラと街に出かける。次第に手がかりをつかみ、自分の生きた痕跡に近づいていくジョン。どうやらマックス・プラマーというのが自分の名前で、麻薬患者救済のNPOを起こしたマノス・カザンのボディ・ガードだったらしい。だがそれは自分がカザン殺しかもしれないという現実に向き合うことでもあった。
ジョン(=マックス)を演じるのは真飛聖で、記憶喪失者の混乱と不安をナイーブに表現。同時に真実の自分を受け入れる勇気や信念を持つ男っぽい一面もあり、真飛聖の魅力の1つは、このストレートさや明るさにあるのだと改めて思う。ナイーブさと強さ、その両面が、これから演じ込んでいくなかで、より陰影を際立たせていくことを期待したい。
相手役のパメラを演じているのは華城季帆。硬質な持ち味が女医という役に似合っているが、患者のジョンに惹かれていく段階が、さらにクリアに見えれば、存在感が増してヒロインらしくなるだろう。
小池作品にはよく登場するマッド・サイエンティストな医者は、今回は未涼亜希のリチャード。どこか人間くさくて未涼らしいのだが、冷酷さや狂気という点で、物語全体にもっと求心力を発揮してもいいかもしれない。
マックスの過去を彩り、あるいは影を落とす人々は、それぞれ個性を発揮している。親代わりだったマノス・カザンの星原美沙緒、相棒ボブの嶺輝あやと、カザンの後継者と称するテオ・カサベテスの高翔みず希、その仲間アンジェラ・鈴懸三由岐とフィリップ・真野すがた。1人としてステレオタイプではなく、裏を持った人間として色濃く印象を残す。
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また、ともすればサイコロジーの暗い穴に引きずりこまれそうなこの物語に、明るい笑いと活気を吹き込んでいるのが、ストリート・ダンス・チームの面々。扇めぐむ、朝夏まなとをはじめとする花組の若手たちの弾けっぷりが半端ではなく、新鮮かつ目を楽しませてくれる。それに、出番は少ないながら、刑事役の紫峰七海とカザンの娘ジュディの野々すみ花も、存在感ある役どころで健闘している。
小池修一郎作品には、優れた映像表現(映像アーティスト奥秀太郎)がいつも用意されていて、今回も“記憶”と“脳内”の感覚が、ファンタスティックといってもいいビジュアルで表現されているのが見どころだろう。そして、一幕では散らばっていた物語のピースが、二幕で一気に1つの絵になってポンと差し出されるあたりはさすがで、ある種の爽快感さえある。
フィナーレは、ロマンティックで若々しいダンスナンバーで一気に盛り上がる。結末の優しさと、フィナーレの華やかさで、見終わったあとには心地よい開放感が残った。
11月22日まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、11月30日~12月6日、東京日本青年館大ホール。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
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◆花組公演◆
ミュージカル・サスペンス『MIND TRAVELLER』―記憶の旅人―
作・演出/小池修一郎
・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2006年11月10日(金)~22日(水)
・東京特別公演(日本青年館大ホール)(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2006年11月30日(木)~12月6日(水)
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/11/13 10:27:54 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)