榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
貴城・紫城のコンビが胸に迫る!宙組『維新回天・竜馬伝!/ザ・クラシック』
宙組宝塚大劇場公演 初日
『維新回天・竜馬伝!/ザ・クラシック』
貴城けいと紫城るいのトップ披露にして退団公演という、唯一の大劇場主演作が、幕を開けた。いろいろな意味でファンには胸に迫る公演だろう。
『維新回天・竜馬伝!』は幕末のヒーロー坂本竜馬の、若き日から刺客の手にかかる無残な最期までを、江戸から京都、大阪、長崎など、ところを変えてつづっていく。その途中で、のちに妻になるお竜との出会いや中岡慎太郎との友情、さらに周辺を彩る人々として、一橋慶喜、武市半平太、桂小五郎ら維新の有名キャラが登場し、「薩長同盟」や「大政奉還」など伝説的なエピソードが描かれている。
初演は真矢みき主演で、バウホールとドラマシティといういわば小劇場芝居向けに、2時間ものとして作られた作品。それを1時間半にしていて、さらに大劇場用にショーアップしているので、ストーリーはやや駆け足気味。だが、どこまでも前向きに日本を未来を見つめて、短い生涯を走り抜けた竜馬の清々しさが、これで退団する貴城けいと重なって、いろいろな場面で思わず涙を誘われる。
竜馬役の貴城けいは、日本物に強い雪組育ちだけに、着こなしや身のこなしの見事さは群を抜いていて、ところどころ炸裂する石田昌也演出ならではの露悪的なギャグも、品良くクリアしてみせる(だからといって石田氏のセンスが許されるわけではないが)。紫城るいとのコンビも、『コパカバーナ』での実績もあり、すっかり息が合っているし、紫城るいのお竜は、気の強さと可愛さ、野性味もあってはまり役。
そのほかの出演者では、中岡慎太郎の大和悠河が容姿の美しさで際立つが、それゆえにやや迫力不足に見えるのがもったいない。人を殺せるほどの志士の猛々しさを、もう一息、お腹に持っていてほしい。出番が少ないながら大きな存在感を見せるのは一橋慶喜の蘭寿とむで、徳川幕府の頂点に立つ風格や敗れる側の無念が短いセリフに込められて見事。また武市半平太の悠未ひろ、桂小五郎の北翔海莉、高杉晋作の十輝いりす、陸奥陽之助の七帆ひかる、沖田総司の早霧せいな、といった若手たちもニンに合った役どころで、出番の多少に関わらずそれぞれ印象を残す。娘役は、千葉佐那子の和音美桜、桂の恋人幾松の音乃いづみ、密偵お蝶の美羽あさひ、高杉の恋人おうのの花影アリスなどが、シーンを与えてもらっている。
その他に、西郷隆盛を演じる寿つかさ、中浜万次郎の美郷真也、勝海舟の立ともみ、寺田屋お登勢の邦なつき、といったベテランたちが脇を締めているのが心強い。宙組の若手はこれまで日本物に縁が薄かったせいか、着こなしや姿勢が悪い。せいぜいベテランを見習って、公演中に上達してくれるといいのだが。
『ザ・クラシック』は、とにかくゴージャスなショーである。サブタイトルに「I LOVE CHIPIN」とあるように、「幻想即興曲」「別れの曲」「革命」などなどショパンの名曲がふんだんに散りばめられいる。また、19世紀前半のロマン主義をイメージした場面構成や、ゴールドを主調に作られた繊細で豪華なセットは、まさにグランド・レビューと呼ぶにふさわしい仕上がりだ。
主演の貴城けいは、軍服や中世の貴族といったコスチュームものの美しさは絶品で、この人で洋物の文芸ロマンも観たかったと思う。ショーの後半では、ショパン本人に扮するシーンもあって、竜馬と同じように、夭折したものの輝きが貴城の立場と重なって胸が熱くなる。最後に歌う「虹色の空」の歌詞も、彼女の思いを伝えるかのようで、ファンにはたまらないだろう。
(↑クリックすると大きい写真が表示されます)
紫城るいも主演娘役として、その持てる力を十分に発揮している。ゴージャスなプリンセスやナイト・クイーン、また可愛い貴族令嬢、そして老貴婦人姿まで幅が広い。大和悠河は、ポピー畑の青年で1場面をもらっているほか、夜会の紳士では美しいエンビ姿を、ショパンの恋人ジョルジュ・サンドでは女役も見せてくれる。銀橋でショパンへのオマージュを語るというシーンもあり、送り出す二番手スターとして役割は重い。また蘭寿とむはショーでも、ダンスの実力と男役らしい色気でどこにいても目を引く。この人が加わったことで、宙組のダンスに新しい芯ができたという感じがする。そのほかに北翔海莉が花影アリスとともにロケットにつながる1場をもらっていたり、悠未ひろ、十輝いりす、七帆ひかるという宙組ならではの長身トリオが、短いソロを歌ったりダンスで活躍したりするなど、バラエティと層の厚さが増した感がある。娘役は和音美桜がエトワールに初挑戦しているが、まだ緊張のためか実力を発揮しきれていないようだ。劇場を揺るがすほどだった『NEVER SAY GOODBYE』の名唱に1日も早く近づいてほしい。
宝塚のトップの交代劇は、それなりの事情があってのことなのだろうけれど、この2作品を見ている限りでは、あと少し貴城けい・紫城るいうコンビを見ていたかった気がする。また、その下に並ぶ個性さまざまで未知数の魅力に溢れたメンバーたちが、どんな風に貴城・紫城のもとで色を変えていくかも見てみたかった。宙組という組は、振り返ればその初期は、こんなふうにいい意味で混沌として、さまざまな可能性に溢れた組だったのだから。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
---------------------
◆宙組宝塚大劇場公演◆
幕末青春グラフィティー『維新回天・竜馬伝!』―硬派・坂本竜馬III―
作・演出/石田昌也
グランド・レビュー『ザ・クラシック』―I LOVE CHOPIN―
作・演出/草野旦
公演期間:2006年11月3日(金)~12月12日(火)
(※東京宝塚劇場公演:2007年1月2日~2月12日)
⇒詳しい公演情報は宝塚歌劇のサイトでご確認下さい。
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/11/06 10:06:43 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)