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2006年11月 2日 (木)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

儚さこそ美しい。雪組千秋楽&『朝海ひかるサヨナラショー』

雪組宝塚大劇場公演 千秋楽・サヨナラショー(10/30)
『堕天使の涙/タランテラ!』『朝海ひかるサヨナラショー』

 10月30日、雪組の千秋楽である。
 朝海ひかる舞風りらという主演コンビの他にも、専科の高ひずるをはじめ総勢10名というたくさんの退団者がいるだけに、劇場の周辺は退団者たちを送るための白い服の女性たち(なかには男性もいる!)で溢れかえっている。
 最後のパレードで退団者たちが通る道筋には、お花見のようなブルーシートで場所取りがしてある。前回の星組は6000人、今回も同じくらいの人数と、終了後に発表があった。必ずしも顔が身近に見られる状況ではないのに、ただ最後の瞬間をともに過ごしたい、という宝塚ファンの一体感がひしひしと伝わる。

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 本公演のあとに始まったサヨナラショーは約30分間。主演男役である朝海ひかるのためのショーではあるが、他の退団者や見送る雪組生も出演して、まさに雪組あげてのセレモニーという感じである。演出は生徒へのオマージュを作らせたら右に出るものがない荻田浩一、ファンの琴線に触れる構成には、いつもながら感心させられる。
 とくに朝海ひかるに関しては、この夏にバウ・スペシャル『アルバトロス、南へ』を手がけていて、そちらでは朝海がトップになるまでの思い出の作品をチョイス、このサヨナラショーでは雪組トップになってからの舞台に焦点を絞るという具合に、スターのバイオグラフィーともいうべき目配りで、ファンの想いをうまくすくい上げてくれる。

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 オープニングは『ベルサイユのばら』より「我が名はオスカル」、スパンコール付きの白いエンビの朝海が大階段に立っている。その背景にオスカルの映像が映し出されて、つい半年前のことなのに、懐かしさとともに当時がよみがえる。話はちょっとそれるが、今回はショーが始まる前の退団者紹介の時にも、それぞれのポートレートが何枚か緞帳に映し出されて、その生徒の簡単な宝塚史を見せてくれたのも嬉しかった。

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 朝海の歌は、続けて「ROSSO」、妖しい魅力をふりまいた『タカラヅカ・ドリーム・キングダム』のテーマである。そして白いドレスの舞風りらとのデュエットダンスで『レ・コラージュ』の深海の場面を踊る。黒エンビの水夏希が、樹里咲穂が歌ったソロを数小節歌いあげると、舞台は、『ワンダーランド』のフィナーレへ、ダンスの名コンビ朝海・舞風ならではの優雅なデュエットが続く。

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(↑クリックすると大きい写真が表示されます)

 ここまではしみじみと展開したショーが、『ワンダーランド』からの「Hey Hey ワンダーランド~ワンダーランド タカラヅカ」で賑やかに転調する。黒エンビに金チョッキの男役たちとエンビ風パンツルックの娘役がかっこよく、もちろん「ガイ」のダンスも一部復活、ファンを沸かせる。続いて朝海と舞風以外で『タカラヅカ・グローリー』を歌うなか、有沙美帆、悠なお輝、愛耀子、花緒このみ、彩みず希、夢華あやり、紫いつみら退団者たちが銀橋に出て歌いついでいく。その7人へ向けて、客席からも大きな拍手が送られる。

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 朝海が銀のフロックコートに着替えて銀橋に登場すると、背後には同期の悠なお輝が弓を構えている。南北朝の悲劇『睡れる月』から「中納言と式部卿宮」を再現して歌う。そしてピンクのドレスの舞風とともに、『Romance de Paris』の、ヴァンサンと王女の別れを切なく歌でデュエット。そのまま『銀の狼』へとつないでいくのは、本公演でも歌手として活躍した愛耀子。アダルティで深みのあるソロは、正塚晴彦の世界へと観客を導いていってくれる。朝海はシルバに舞風はミレイユに、他の出演者もどこか役柄を思い出させるような表情で、プロローグのダンスを堪能させてくれた。

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(↑クリックすると大きい写真が表示されます)

 このあとは再び賑やかに、後半へとなだれ込んでゆく。男役はゴールドのチョッキ、娘役は縞のチョッキで黒のパンツ姿、『Joyful!!』の「夢のジャズ」が始まる。組替えになる壮一帆がフィーチュアされ、音月桂も盛り上げる。さらに水夏希も加わった渦の中に朝海が登場。その朝海を囲んで、舞風以外の出演者が本舞台いっぱいに広がってラインダンスを繰り広げる。まさに壮観でゴージャスな眺めだ。『スサノオ』の「大和よ」の大合唱のなか、朝海は退場。入れ替わりに舞風りらがイナダヒメとなって「泣くのはやめた」を歌いあげる。その晴れやかさ強さは、きっと今の舞風の心情なのだろう。
 朝海の最後は『Romance de Paris』のヴァンサンのラストシーン。白のロングコートで「風のように」を歌いあげ、1人、観客に別れを告げた。
 この「風のように」は、そのあとの記者会見で、なぜこの曲をラストに?とたずねられ、「この作品にとくに思い入れがあったので。ヴァンサンは自分と近いと感じたし、この歌詞も今の自分の気持ちに近かった」と答えていた。いろいろな意味で印象深い公演だったのだろう。

 『Romance de Paris』と同時上演の、三木章雄演出のショー『レ・コラージュ』の中に“記憶のコラージュ”という名シーンがあった。この荻田浩一演出の『朝海ひかるサヨナラショー』は、まさにその言葉のようなステージだった。曲から曲へ、メロディからメロディへと、記憶が湧き上がり連鎖しつながれていく。だがその記憶は、一瞬たりとも想いの中にとどまってはくれない。まるで走馬灯のようで、追いかけようとするそばからすり抜け、手の中からこぼれ落ちていく。本公演のフィナーレの歌詞にも「とどまることなどない時間を追いかけて」と歌っているように、“すべては消えてゆく夢”、そしてその儚さこそ美しい。そう思わせてくれた珠玉のひとときだった。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)

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大階段を袴姿で降りた朝海ひかるに、同期生からの花を渡す花組の春野寿美礼と鈴懸三由岐

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/11/02 12:28:00 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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