現役&OGタカラジェンヌの情報、舞台評、動画つきインタビューなど宝塚歌劇関連の話題をお届け。 ⇒詳しく
オスカルやアンドレが3頭身に!ブログ「ベルばらKidsぷらざ」では、Kids最新情報のほか、読んで楽しい連載が満載です。会員サイトでは「ベルばら」の魅力を宝塚歴代スターに聞く動画つきインタビューも!

« 朝海ルシファーの神秘と妖しさ 雪組『堕天使の涙』 | トップページ | <初級編>清く正しく?イケナイ恋の物語 »

2006年11月22日 (水)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

演じ手への愛が溢れる傑作 雪組『タランテラ!』

 (雪組初日レビュー『堕天使の涙』より続く)

 さて『タランテラ!』のほうも、演じ手への愛が溢れている傑作である。

 荻田浩一のショー作品は、必ずストーリー性を帯びていて、隠されたそれを見つけるのが、ちょっとコアなファンには楽しみとなる。それが時によっては一般のファンにはとっつきの悪さにとられ、紙一重のリスクもはらんでいるのだが。

 このショーは題名にもあるように、毒蜘蛛と舞踏病がモチーフ。蜘蛛嫌いな人も多いことだろうし、決して予定調和な世界ではない。だがその蜘蛛を“生命”として捉える、あるいは擬人化してながめれば、そこに込められた作者の世界観や思想といったものが透けて見えてくる。そんな謎解きにも似たマニアックな面白さが、今回もふんだんに散りばめられている。

Yuki5
(↑クリックすると大きい写真が表示されます)

 オープニング、そこは地底のような暗い場所。その暗さはフィナーレの前まで背景を覆い続ける。だが、光の射さない世界でも、生命というものはかくも鮮やかに輝いているのだといわんばかりに、躍動し、押し寄せるさまざまなダンス、ダンス、ダンス! その波は、ときには激しく、ときには優雅で、美しいうねりはまさに観客をも巻き込み、舞踏という甘美な病へと引きずり込んでいく。

 荻田浩一のショーには、シーンごとのわかりやすいチェンジはほとんどない。この『タランテラ!』も、地底のような場所から、スペイン、ラ・プラタ河、ブエノスアイレス、アムステルダム、大西洋、アマゾンと流れていくのだが、ほとんど地続きでは不可能なその足跡は、蝶の道か?あるいは蜘蛛の夢なのか? どこもエスニックでありながら無国籍で、この世でありながらこの世のどこでもない夢幻性がつきまとう。

 そんな深い夢の中にいるような感覚から、一瞬にして光のなかに引きずり出されるのがフィナーレ。まるで天空の蓋がいきなり開いたかのような、溢れかえる明るい色彩と陽気なリズムのダンスが、えんえんと10分近く繰り広げられる。その躍動感とエネルギーは、理屈抜きで、まさしく今を生きている人間の熱い魂を伝えてくれて、渦の中心で踊り続ける朝海ひかるの、どこか神がかった美しさとともに、見るものの心に、言葉にならないほどの感動を呼び起こすのだ。

Yuki8
 ショーの中心を踊る朝海ひかるは、タランテラの妖しさや毒とともに、生命体としての儚さや脆さも持っていて実に魅力的だ。ラ・プラタ河や大西洋では指先まで美しい動きで観客を誘い込み、スーツ姿のアムステルダムでは、小気味のいい男役ぶりで惹きつける。だがなんといっても感嘆するしかないのはフィナーレで、8分間を、タフに爽やかに踊り続けるダンス力。この場面の朝海は、宝塚のショースターとしての新しい伝説を生んだといっていいだろう。

Yuki7
 舞風りらも、ダンサーとしての本領を発揮している。ラ・プラタ河の蝶や大西洋の海の女の優雅さと、フィナーレで男役をしたがえて踊る男前なダンスで、改めてその幅広い実力を感じさせてくれた。

Yuki6
 男役らしいダンスを踊らせればひときわ目を引く水夏希スパニッシュでは華やかさに、ブエノスアイレス~アムステルダムの街の男ではセクシーに粋に、フィナーレの黒エンビでは朝海とのかけ合いが楽しい。また中詰めのアマゾンでは芯をつとめて大きさを発揮してみせた。

Yuki10
(↑クリックすると大きい写真が表示されます)
 そのほかにも専科の矢代鴻の歌や五峰亜季のダンス、また歌手では雪組のベテラン美穂圭子未来優希、愛耀子、麻樹ゆめみらが、ダンスでは有沙美帆がフィーチュアされ、その実力で場面を引き締めている。若手たちも、囚われの男の壮一帆や蜘蛛の影の音月桂などが各場面で活躍。娘役ダンサーのなかでは大西洋で綺麗なジャンプを見せた沙月愛奈が印象に残った。
 
 この公演は、朝海ひかると舞風りら、そして専科の高ひずるなど総勢10人が退団するために、ひときわ賑わいを見せているが、それに応えて、朝海ひかるを頂点とする今の雪組の充実した力を惜しみなく見せてくれている。千秋楽はクリスマス・イブ。『堕天使の涙』の白い雪の中でのルシファーとの別れが、現実となる日である。
(文・榊原和子/写真・平田ともみ)

《関連情報》
朝海ルシファーの神秘と妖しさ 雪組『堕天使の涙』(11/21Up)
朝海ひかる初日会見「新たな発見をしながら、最後まで取り組んでいきたい」(11/19Up)

Yuki9

---------------------
◆雪組東京宝塚劇場公演◆
『堕天使の涙』
作・演出/植田景子

レビュー・アラベスク『タランテラ!』
作・演出/萩田浩一

公演期間:2006年11月17日(金)~12月24日(日)
詳しくは
⇒宝塚歌劇団公演案内へ

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/11/22 11:00:00 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (1)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 演じ手への愛が溢れる傑作 雪組『タランテラ!』:

» 宝塚雪組みの今話題の内容を掲載しています。 トラックバック 宝塚歌劇 雪組の話のネタどころ・・・。
宝塚雪組みの今話題の内容を掲載しています。 いよいよ「朝海ひかる」さんが退団してしまいます。涙。 続きを読む

受信: 2006/12/10 22:49:44