榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
清々しくも毅然として 朝海ひかる退団会見&パレード
雪組東京宝塚劇場公演千秋楽(12月24日)
朝海ひかる退団会見・パレード
宝塚歌劇団雪組の主演コンビ、朝海ひかると舞風りらが宝塚の舞台に別れを告げた。
大盛況のうちに幕を閉じた『堕天使の涙』と『タランテラ!』の千秋楽、そしてサヨナラショーを終えて、あとはパレードを残すだけとなった朝海ひかるが、この日の夕方からの、退団記者会見に臨んだ。
東京宝塚劇場の2階ロビーに作られた会見場に現れた朝海は、爽やかな表情で、まず記者団に挨拶をする。
「日頃より宝塚歌劇を、雪組を、そして私をご支援いただきありがとうございました。今、宝塚の舞台を卒業してまいりました。清々しい思いと、充実感と幸せな気持ちでいっぱいでございます。今までの16年間、お世話になりありがとうございました」
続いて質疑応答が始まる。
──朝海さんにとって宝塚とは?また印象に残っていることは?
「私にとって宝塚は本当に全てでした。何をやるにも、何を見てもすぐの宝塚に結びつけていたと思います。いちばん思い出に残っているのは、やはり今日という日が、きっと美しい思い出になると、先ほど客席を見ながら思いました。本当にこんな思いをさせていただいたことを、感謝しております」
──5月の退団発表から今まで、心境の変化とか実感とかはありましたか?
「退団発表したときは、1つなにか皮がはがれたような清々しい気持ちがして、それからは、最後のここに向かってがんばっていこうという、その気持ちだけで来ましたけど、退団の実感はまだ湧きません。本当に退めるのかなという。それほど宝塚が自分の中にありましたから。
明日から宝塚というものがなくなって、自分がどうなってしまうのか、きっと、1カ月2カ月経ったくらいから、宝塚を退団したという実感があるのではないかと思っています」
──今朝から退団用のセレモニーなどもありましたが、それでも実感は?
「そうですね、なにか楽しいイベントをやっているような感覚で、組子のみんなにいろいろしてもらって、幸せ、嬉しいという気持ちばかりで。みんなと別れると思いたくないのか、思わないようにしているのかわかりませんが」
──今後の予定は?
「25日にならないと何もわからないということがありましたが、もう、そう言っている場合ではないので、いろいろ考えないととは思っています。決まり次第、またお知らせ出来ると思います」
──大階段を降りるときちょっとよろけられましたが。またどんな気持ちで降りられましたか?
「足元がすべりまして、ちょっとびっくりしたのですが。
大劇場の場合は一段一段踏みしめて、大階段の感触を忘れないようにと思ったのですが、今回は、客席のお客様の感じとか、大階段からの眺めとか、そういう感覚を忘れないようにと思いながら降りました」
──花を持ってきた春野寿美礼さんが何か言っていたようですが?
「(笑)さみしいよーと」
──今後の活動はどんなことを?
「さまざまなことだと思います」
──涙はなかったようですが、こらえていたのですか?
「そうですね、男役朝海ひかるとして、1人の舞台人として、最後まで全うしたいというのがありまして、幕が降りるまでは、この『堕天使の涙』と『タランテラ!』が終わるまでは、「サヨナラショー」が終わるまではと。
やはりお客様に楽しんでいただく、そしてちゃんと舞台として楽しんでいただけるものをお届けしたいと思っておりましたので、一時の感情に流されずにと思ってがんばりました」
──これからまず何をしたいですか?
「ゆっくり温泉とか(笑)、たまには海外にも行きたいし、自分と向き合って。
今までそういう時間がなかったので、はたして自分がどういう人生を歩みたいのか、どういう方向に行きたいのか、ちゃんと自分と話し合ってみたいと思っています」
──改めてファンへの感謝の言葉があれば。
「本当に、私が初舞台を踏みましてから、何度も何度も挫けそうになり、私に舞台は合わないのかなとか、男役は向いてないのかなとか、心配を持ちながら舞台をやっていたときもありましたし、落ち込んだときもありましたが、そういうときこそ、本当にお客様が私を支えてくださいました。
温かく見守ってくださって、少しでも成長すると、それを誉めてくださって、本当にその度に一段ずつ階段を登って、また上に向かうことができたので。
今ここに、ここまで来れたのは、劇場に足をお運びくださった客様のおかげで、それ以外の何ものでもないと思っています。皆様には心から感謝しています」
──雪組の方たちに何か言葉は?
「雪組のみんなには、本当にファンの方々とは違う意味で、私を見守ってもらって、体の一部となっていまして。明日からはみんなと会えないと思うと、その感情にひたりたくない気持ちでいっぱいなんですけど。
今の雪組生なら何がきてもやっていけると信じてますし、これまで以上のものを作ってくれると信じてます。先ほど荻田浩一先生に言われたのですが、『くやしがるようなものを作る』と。私も、それを客席でくやし涙を流して観たいと思っていますので(笑)。心配はしてません」
★ ★ ★
会見が終了して、約30分後に、退団者のパレードが始まった。
朝のうち強くて寒かった風はやんで、穏やかな夜だ。だが12月だけあって、冷え込みはさすがにきつい。約8000人と発表された見送りの人々は、日比谷交差点側にも大きく広がり、ぎっしりと舗道を埋めつくしている。その約3分の1近くを、退団者との別れを惜しむ白い服のファンたちが占めている。
東京宝塚劇場の楽屋口から、下級生順に退団者が出てくる。
紫いつみ、夢華あやり、彩みづ希、花緒このみ、下級生たちは、それぞれ可憐な花束を抱いて、それぞれのファンにしっかりと別れを告げながら去っていく。ピンクの胡蝶蘭を髪に飾った愛耀子は、たくさん泣いたような子供っぽい笑顔だ。男らしく歩いてきてしっかりお辞儀をする悠なお輝、女らしく落ち着いた物腰の有沙美帆、研39というキャリアにも似ず若々しく手を振る専科の高ひづる…。
そしていよいよ舞風りらが歩いてくる。白とピンクの薔薇の花束を持ち、同じ花を髪に飾り、化粧を落とした顔は、その別れの言葉にあったように“穏やか”そのものだ。「まーちゃん」という声が沿道のファンから飛ぶと、ニコニコと優しく微笑みを返しながら、たおやかに、そしてしっかりとした足取りをみせながら去っていった。
ひときわ高く大きな歓声が巻き起こる。朝海ひかるが楽屋口から出てきたのだ。日比谷交差点側のファンにまず挨拶をして、ゆっくりゆっくりと、まるでひとりひとりと言葉を交わし合うような、そんな温かな眼差しで、待っていたファンたちを見つめながら歩いてくる。
報道陣の前に立ち止まり、笑顔でフラッシュを浴びている。その顔は、カーテンコールでも言っていたように「言葉にならない思い」を瞳に浮かべていて、清らかだ。こうして見送ってくれるファンたちへの、たくさんの感謝や、たくさんの愛が、その胸のうちには溢れているのだろう。
再びパレードに戻って歩み始める朝海ひかる。16年という年月を走り抜いて、今、その最後の瞬間を迎えた華奢な背中に、「ありがとう」「こむちゃん、ありがとう」とたくさんの声がかけられる。その声を両肩でしっかりと受け止めながら、最後までファン1人1人を見つめながらゆっくりと歩いていく朝海ひかる。待っていた赤い車に乗り込むそのときまで、その姿は毅然として、また、無心な美しさをたたえていて、寂しくもみごとな、宝塚男役「朝海ひかる」としてのラストステージだった。(文・榊原和子/写真・吉原朱美)
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/12/26 10:27:30 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (2)
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