榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
安蘭けい&遠野あすかの魅力が増幅 星組『ヘイズ・コード』
星組梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演 初日
『ヘイズ・コード』
星組の新しい主演コンビ、安蘭けいと遠野あすかの、本公演前のプレお披露目ともいうべき舞台が幕を開けた。『ヘイズ・コード』、30年代の映画製作に欠かせなかった自主規制(コード)をめぐるお話である。
この作品はスクリューボール・コメディと銘打たれていて、スクリューボールというのは、直訳すると変化球、スラングでは変人、つまりは“変人喜劇”ということらしい。確かにちょっとクセのある登場人物ばかりで、ヒーロー・ヒロインといえどもそれは例外ではなく、その個性や行動の愛すべき突出ぶりを面白がるのが、このコメディの楽しみかただといえる。
舞台はハリウッドの撮影所、キスシーンの秒数をチェックするというばかばかしい役目で、倫理委員会(PCA)から派遣されているのが安蘭けい扮するウッドロウ。彼と対立する演技熱心な新人女優リビィが遠野あすか。この2人が自分の仕事に熱心なあまり対立、ケンカしつつも内心では惹かれ合っていく。こういう展開は、スクリューボール・コメディの定番なのだが、恋のプロセスのドキドキ感と、30年代のハリウッド映画的なのどかさが、この舞台の大きな魅力になっている。
同時にこの物語には、その頃アメリカ映画界を支配していた過剰な自主規制への批評性も込められていて、作・演出を担当した大野拓史の、デビュー作『更に狂はじ』以来のテーマ、“政治権力と芸能文化のせめぎ合い”が、今回も背景に大きな影を落としている。いつの世も“自由な表現”は、政治のさじ加減と無縁ではないのだ。
そんな体制側から送り込まれた人間でありながら、次第に本来の自分にめざめていくPCAのオブザーバーが安蘭けい。しかつめらしい最初の登場から、だんだんと秘めた情熱や内面を表していく様子を、安蘭ならではの自然で説得力のある演技で見せてくれる。また、タップダンスの腕前を披露する場面のかっこよさ、閉じこめられた2人の場での男役としての懐の深さは、とくに今回のみどころ。2幕のオープニングやフィナーレにはエンビ姿で登場、主演男役らしい風格を感じさせて美しい。
遠野あすかのリビィは、とにかく可愛くて色っぽい。アメリカ娘の鼻っ柱の強さと素直さをいやみなくみせて、何度も登場するキスシーンも時にはセクシーに時にはピュアに演じわけてしまう。この時代の衣裳、髪型もよく似合って、スタイルのよさをアピール、歌もダンスも安心してみていられるのが頼もしい。
スクリューボール・コメディならではの“変人”ぶりは、周囲を固める人たちに、とくによく描き込まれていて、ウッドロウの婚約者・琴まりえ、ウッドロウの兄・祐穂さとるとその妻・南海まり、PCAの上役・万里柚美と秘書・紅ゆずる、催眠術のできる牧師・にしき愛、酒乱気味のスクリプター・彩愛ひかるなど、どの人物も大真面目なのにどこか普通ではないところが、かえってリアルでおかしい。
そんななかで比較的おとなしめな役どころなのが、主人公の親友で映画監督の立樹遥、主人公の義理の弟で御曹司の涼紫央、映画スターの麻尋しゅんという男役たちだが、それぞれのスタンダードな役作りで活躍している。
また専科の一樹千尋と磯野千尋が、さすがのキャリアでしたたかな映画人と冷徹な実業人の恐さをかいま見せ、舞台を引き締めている。
そんな充実したメンバーに囲まれて、この公演から正式にスタートした安蘭けいと遠野あすかのコンビ。ナチュラルな演技スタイルや、抜群の歌唱力という武器が共通しているうえに、一緒に登場することで、お互いの魅力をより増幅して見せてくれる。そのメリットをこの作品で見せてくれたことは大きい。
フィナーレには、ほぼ全員が客席まで降りてくるなど、終始アットホームなこの舞台。コメディは観客の上手な笑いで育てられていく。温かく楽しいこのスクリューボール・コメディが、出演者と観客の熱い思いで、ますますブラッシュアップしていくことを期待したい。(文・榊原和子/写真・大住森)
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◆星組公演◆
『ヘイズ・コード』
作・演出/大野拓史
・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2006年12月15日(金)~27日(水)
・東京特別公演(日本青年館大ホール)(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年1月4日(木)~1月11日(木)
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/12/18 11:46:03 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (2)
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» 写真を見たら....仕事が手につかないわ♪ トラックバック すみれ三昧別館
毎度ありがとうございます。『宝塚プレシャス』さまっ♪ 今回も写真入り速報。 どの 続きを読む
受信: 2006/12/18 13:12:12
» 『ヘイズ・コード』記事 トラックバック 以降暗転。以下自粛。
宝塚プレシャスさんが『ヘイズ・コード』を取り上げてくれてはります。
なんか、絶賛!ですか?
そして写真満載です!!キスシーンの写真も!!
2幕あたまのキラキラ燕尾のトウちゃんかっこいいっすー!!
記事の内容も、満遍なく登場人物に触れられていて観に行きたくなる文章です。(チケット無いけど)
ああ、安蘭さんの声が早く回復しますように。... 続きを読む
受信: 2006/12/18 20:08:34