中本千晶のヅカ★ナビ!
<中級編>踊る堕天使と毒蜘蛛(タランテラ)
レベル:★★☆(中級)
分野:生物学的人間学
対象:子どもの頃、虫を集めて母親を卒倒させたことがある人。この世のものならざる不思議が大好きな人。
現在、東京宝塚劇場で上演中の雪組公演は、お芝居の主人公が「堕天使」、ショーの主人公が「毒蜘蛛(タランテラ)」である。
芝居とショーの主役がともに「人間じゃない」なんて、タカラヅカ始まって以来のことじゃないだろうか。
これは、この公演をもってタカラヅカを退団するトップスター朝海ひかるのキャラによる特異現象だ。もちろん、普段のタカラヅカは人間が主人公の作品を上演している。
初めてタカラヅカを観た人からはどの人も同じにみえるかもしれないトップスターも、その魅力は千差万別、なかでも朝海ひかるは、「中性的な美しさ」と「抜群のダンス力」という2つの点において際立って個性的なトップだった。
とくに「中性的な美しさ」という点でいえばコムちゃん(朝海ひかる)の場合、「女が演じる男役」というよりは「男と女の中間にいる人」といったほうが正しい感じがする。
とりわけ印象的だったのがレビュー「レ・コラージュ」(2003年)のプロローグ。男役として登場したのが、一瞬にして女性に変身するという離れ業をやってのけたのだ。
あの変わり身はコムちゃんならでは。
過去に中性的な魅力を持ったトップスターは何人もいたし、男役が女性を演じることもあるけれど、彼女のように男と女の間を自由自在に渡り歩ける人はいないのではないか。
そんなコムちゃんから芝居担当の演出家、植田景子氏は「堕天使」というインスピレーションを受け、踊りでもって人間たちを翻弄させることにした。
ショー担当の荻田浩一氏は「毒蜘蛛(タランテラ)」をイメージし、同じくダンスの名手である相手役の舞風りら(彼女もこの公演で退団する)とともに極彩色の世界で踊りまくらせることにした、というわけだ。
タカラヅカの作品は基本的にトップスターを中心とした組の構成メンバーの魅力を最大限に引き出すことを考えた「あて書き」である。「ベルばら」のように何度も再演されている作品でさえ、再演のたびにそのときどきの組メンバーを考慮した変更がなされる。
歴代のオスカルのなかでも、ペガサスに乗ったのは朝海オスカルだけなのである。
そう考えると、今回の雪組公演は究極の「あて書き」といえるだろう。朝海ひかるという特異な個性を持ったスターの魅力を満喫できて幸せだった。
芝居のラストはクリスマスで締めくくられる。ちょうど、この公演の千秋楽、つまり朝海ひかるのタカラヅカでのラストステージがクリスマス・イブの日にあたるのを考えてのことに違いない。
真っ白な雪景色のなかで別れを告げる雪組の「堕天使」・・・うう、考えただけで泣いちゃいそうな心ニクイ演出ではないか!(中本千晶)
☆ステップアップのための宿題☆
とくに宝塚のショーでは、「人間ならざるもの」はしばしば登場します。豹、猫、鳥、蛇、カマキリ、妖精、地獄の王・・・ときには「人間が世界の中心」という世界観から離れてみるのもいいのでは?
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2006/12/22 11:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | Permalink | トラックバック (0)