榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
瀬奈じゅんが愛嬌たっぷりに演じるコメディ 月組「パリの空よりも高く/ファンシー・ダンス」
月組宝塚大劇場公演初日(1月1日)
『パリの空よりも高く/ファンシー・ダンス』
お正月の月組公演が1日、開幕した。
芝居は笑いあり涙ありの軽いコメディ、ショーは盛りだくさんのダンスが楽しめて、年明けにふさわしい2作品になっている。
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『パリの空よりも高く』は、副題にも書かれているように、菊田一夫の「花咲く港」を演出の植田紳爾が、時代と国を変えて書き直したもの。詐欺師2人が、騙すつもりでネタにしたエッフェル塔を建てるという壮大な夢にいつしか巻き込まれ、いつしかエッフェル塔建設の功労者になってしまうという、ちょっと皮肉な喜劇だ。
主演男役の瀬奈じゅんが演じるのは、人をペテンにかけるのを生業にしている詐欺師アルマンド。機転がきき計算が立つのだが、どこか人のよさと男気もあって、最終的には儲けそこなってしまう。つまりは菊田一夫の人生観でもあるのだが、ヒューマンな部分を捨てきれないダメ詐欺師を、巧みな早口ゼリフと軽妙な動きで愛嬌たっぷりに演じて、観客を引きつける。
アルマンドの相棒で、彼の足をなにかと引っ張るジョルジュは大空祐飛。瀬奈とは対照的な天然ボケ&弟キャラが意外に似合うし、アルマンドのツッコミをしっかり受けている。一方、女の子へのアプローチの素早さや、人の心を察するパリジャンの粋さもあって、アルマンドとの掛け合いがこなれていくにしたがって、役の面白さとともにもっと表に出てくるだろう。
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そのコンビの詐欺のネタにされながら、研究者らしい真っ直ぐさで周囲を自分のペースに引っ張り込むのは、霧矢大夢演じるエッフェル塔の建築家ギスターブ・エッフェル。モシャモシャ頭で、緊張すると言葉が出ないというユニークなキャラが観客を驚かせるが、ラストでの二枚目ぶりも含めて、この物語にアクセントをつける存在になっている。
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主演娘役の彩乃かなみは、ギスターブやジョルジュに想いを寄せられながらも、アルマンドにひかれていくという花売り娘ミミの役。出番は多くないが、エッフェル塔の建設資金にと自分の貯金を差し出し、アルマンドの心に揺れを生じさせる場面や、せつないラストシーンで観客の涙を誘う。
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ホテルが舞台のペテン師たちの仕事とあって、そこに登場する人々がそれぞれ個性的なのが、この作品の見どころでもある。上院議員の未沙のえる、ホテルの女主人の出雲綾、陸軍将軍の嘉月絵理、銀行頭取の越乃リュウ、そして財閥御曹司の遼河はるひといった面々が、2人組を疑ったり騙されたりする様子が、1人1人の役職とキャラで書き分けられていて、なかなか面白い。なかでも出雲綾は、いきなり長ゼリフでこれまでのパリ万博を語る冒頭場面を、みごとにこなしているのはさすが。また遼河はるひのハンカチ王子ぶりも、笑いを誘って頼もしい。
若手男役は皆、ホテルのギャルソンだったり、若手娘役も役らしい役がないのが残念だが、開幕に豪華でにぎやかなパリレビューを展開するという構成では、物語の展開は、最小限に絞り込むしかなかったのだろう。その苦肉の策か、日時の経過を背後に描かれたエッフェル塔の出来上がり具合で見せるアイデアは、なかなか面白かったが。
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テーマ的に言えば、菊田一夫作品ならではの人間のリアルな姿、状況によっては卑小にも崇高にもなってみせるのが“人間”という、そのエッセンスが伝わる舞台になっていたことを評価したい。
芝居のオープニングで黒エンビの総踊りがあったので、ショーの幕開きはいったいどうなるのかと心配したが、全身ハデなピンクに染め上げられた瀬奈じゅんで始まった。1人でも十分華やかだ。
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『ファンシー・ダンス』は三木章雄の“ファンシー”シリーズの3作目で、ダンスがテーマ。振付陣が豪華で、『コパカバーナ』に続いてのダレン・リーをはじめ、羽山紀代美、名倉加代子、KAZUMI-BOYといったセンス溢れるコレオグラファーを揃えている。使われる音楽はスタンダードなジャズからタンゴ、ラテンまで。ダンスのスタイルは、ビートのきいたリズミカルなものからドラマ性を持ったものまで、これでもかというほど満載されていて、ショーの華はダンスという言葉通り、ダンス、ダンスで押しまくる。
瀬奈じゅんは、なんといってもエンビ、タキシード、スーツという男役スタンダードがよく似合うスター。オープニングもそうだが、オルフェをモチーフにした「ラスト・ダンス」や、ダレン・リー振付の「ダンス・ウィズ・ミー」の大スター・フランクなどで、瀬奈らしい魅力を迷いなくアピールしている。一方、シェラザードの物語「パープル・ヘイズ」での珍しいコスプレ姿は新鮮なのだが、物語の登場人物としての耽美性をより深めていく余地がありそう。この路線をクリアすれば、これからの可能性をさらに広げることもできそうだ。
彩乃かなみは、瀬奈じゅんの登場シーンではほとんど組んでいて、息のあったダンスを踊ってみせる。「ラスト・ダンス」や「パープル・ヘイズ」の大人びた顔から「ダンス・ウィズ・ミー」の弾けた顔まで、多彩な表情と安定したダンスを見せて、その力を改めて印象づけた。
霧矢大夢のいちばんの見せ場は「タンゴ・ノワール」だろう。ダレン・リー振付けで、かつてニジンスキーが踊ったという人形ペトルーシュカの悲劇を演じ、城咲あいのコロンビーヌや遼河はるひのムーア人とともに、ショーの中で色変わりの場面を担っている。
大空祐飛は「アイ・ワナ・ダンス!」を受け持って、ダンサーたちのオーディション・シーンを踊っている。ここにフィーチュアされた桐生園加や下級生ダンサーたちは、これからの月組を背負う若手たち。桐生の参加で層が厚くなった月組男役を率いて、確かな存在感とパワーを感じさせてくれる1場面だった。
その他、男役は星条海斗、龍真咲、娘役は夢咲ねね、白華れみなど、これから活躍しそうな若手たちが、場を多く与えてもらっているし、退団が決まったダンサー紫水梗華が、ロケットガールでダイナミックなダンスを見せてくれるのが嬉しい。
ダンスがメインのショーだけに、耳だけで楽しめる場面が少ないし、観たあとにビジュアルの記憶のほうが強く残っているのが不満と言えば不満なのだが、高レベルの振付けが多く、1つ1つの場面はそれ自体がクオリティの高い仕上がりになっている。これから、それぞれの個性で場面の色をブラッシュアップしていくにしたがって、このショーの魅力がより伝わりやすくなるにちがいない。
宝塚の古きよき時代の香りが確かにある『パリの空よりも高く』、今の宝塚のダンス力を追求する『ファンシー・ダンス』。93年という歴史を数える宝塚歌劇、その培った財産をあらためて感じさせる2作品である。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
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◆宝塚歌劇月組公演◆
宝塚ロマンチック・コメディ『パリの空よりも高く』 ~菊田一夫作「花咲く港」より~
演出:植田神爾
レビュー・ロマネスク『ファンシー・ダンス』
作・演出:三木章雄
期間・場所:
2007年1月1日(月・祝)~2月5日(月) 宝塚大劇場
2007年2月17日(土)~4月1日(日) 東京宝塚劇場
※⇒公演の詳しい情報は宝塚歌劇団HP公演案内ページでご確認ください。
《関連情報》
■演出家・植田紳爾さんインタビュー後編(12/16)
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/01/04 8:48:28 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)