現役&OGタカラジェンヌの情報、舞台評、動画つきインタビューなど宝塚歌劇関連の話題をお届け。 ⇒詳しく
オスカルやアンドレが3頭身に!ブログ「ベルばらKidsぷらざ」では、Kids最新情報のほか、読んで楽しい連載が満載です。会員サイトでは「ベルばら」の魅力を宝塚歴代スターに聞く動画つきインタビューも!

« 水夏希 x マテ・カマラス ― 二人のトート対談(前編) | トップページ | 荻田+春野寿美礼の“男役の美学とスパイス”が隠し味『TUXEDO JAZZ』 »

2007年2月26日 (月)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

乱歩作品にふさわしい春野“危険”な匂い『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴』

花組宝塚大劇場公演初日(2月9日)
『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴(トカゲ)』~江戸川乱歩作「黒蜥蜴」より~

(レビューのアップが書き手の事情で、たいへん遅くなりましたことをお詫びいたします)

 花組が大劇場で公演中である。話題作の2本立てで、とくに芝居は、有名な江戸川乱歩原作の黒蜥蜴を、どう宝塚の舞台に乗せるかということで、開幕前からキャスティングを含め注目が集まっていた。事実、観客の意見を大きく二分するに違いない仕上がりとなっている。

0702hanakuro1
↑クリックすると拡大写真を表示

 物語の核になっているのは、名探偵・明智小五郎と女賊・黒蜥蜴の対決。天才的な推理力で犯罪者を追いつめる明智と、知の限りを尽くして悪を楽しむ黒蜥蜴という敵同士が、富豪令嬢の誘拐事件を通して闘ううちに、互いの才能を認め合い、惹かれ合っていくさまが、この作品の見どころになっている。

0702hanakuro2

 ところで、乱歩の原作をもとに書かれ、原作同様に有名な作品に、三島由紀夫の戯曲「黒蜥蜴」がある。三島版「黒蜥蜴」の面白さは、明智と黒蜥蜴の関係を、もっとも純化された恋愛の形として捉えたことだろう。三島の世界では、明智と黒蜥蜴はいわば精神の双子として存在する。この世で唯一、お互いを識るものであり、夢(=欲望)も、美意識も、闘いの方法も手に取るように理解できる。その分かちがたい“絆”ゆえに、2人は互いに惹かれ合い、対立し、最後は片方を殺すことでしか残る半身は生きることができないのだ。

0702hanakuro3
↑クリックすると拡大写真を表示

 木村信司はリアリストである。三島のような、観念による生死ではなく、現実の愛を遂行するために人は生き、そして死ぬ(歌劇誌の言にある自称ロマンティストな部分でもある)。それゆえに彼の『黒トカゲ』は、明智と黒トカゲの間にある“絆”を、障害として提出する。ネタばれになるのでこれ以上は書かないが、その改訂は、三島版の美学に惹かれた観客にとっては、物語の俗化、矮小化を感じざるをえないだろう。また逆に、原作や三島版を知らない観客には、結末の必然性や悲劇性を強めるベクトルとして有効に受け止められるだろう。
 そういう意味では、この作品の評価は最終的には観客の内側にあるともいえる。

 ついでにいうなら、この舞台で「戦後」を犯罪のファクターの1つとして設定していることも、三島美学からは遠ざかる。悪を行う心の闇は、時代や背景に関わりなく欲望として存在するのが“人間”であり、自らの心の闇を知りつつ犯罪に走らないのも、また“人間”である。その明暗の象徴として描かれているのが三島版の明智と黒蜥蜴なのだから。

0702hanakuro4

 主演の春野寿美礼は、天才的な名探偵として悪を追いつめていく明智小五郎。そのある種マニアックな戦略家ぶりや、綺麗とはいえない変装姿を、主演者の輝きを失わずに演じて魅力にしてしまえる宝塚スターはそうはいない。どこか三島版の美輪明宏と共通する“危険”な匂いを持っているのも、乱歩作品の主演者にふさわしい。最後の絶唱がメロドラマティックで、木村版のエピローグとしては大きな効果をあげている。

 緑川夫人=黒トカゲという大役を担った桜乃彩音は、膨大なセリフと多彩な変身といった課題と闘いながら、木村版で設定された黒トカゲのキャラクターを、迷いなく生きている。しかも女賊として十分に美しさや強さ、存在感がある。だからこそ、本来の「黒蜥蜴」のまま上演してみるという手もあったのでは?という気もする。もちろんその場合、声とイントネーションを、もっと大人に作る必要があるかもしれないが、声の幅を作ることは、彼女の今後の役柄を広げるのに役に立つはずだ。

 真飛聖は、黒トカゲのもとで動いている過去のある元ボクサー雨宮で、花組に来て初めてといっていいくらい男くささを表に出している。ドラマシティで主演したときに身につけた陰影と大きさが、この役を演じるうえで役立ったのだろう。

0702hanakuro5

 雪組から組替えで戻ってきた壮一帆は、明智の友人の波越警部。演技の質がもともと硬質で、それがちょうど役柄にはまって儲け役。ソロナンバーでは歌唱の成長ぶりを見せている。

 桜一花の小林少年は、ひたすら可愛らしくけなげで、とくに終幕では観客を泣かせる。
 早苗、実は葉子という大役に抜擢された野々すみ花は、舞台度胸や歌唱力、娘役らしさも十分なのだが、黒トカゲのコレクションにされかねないミステリアスな美がやや不足気味。

0702hanakuro6

 ほかには、富豪の岩瀬・夏美よう、その使用人のお重・梨花ますみ、天城刑事・高翔みず希、書生寺坂・愛音羽麗くらいが、キャラといえるものを与えられているが、そのほかの出演者が、書生たち、少年探偵団たち、酒場などの客たちというコロス化でしか生かされないのは残念で、演出家としてもう少し工夫のしようはなかったのだろうか。

 人間がマスでエネルギーを発揮する必然(木村作品でいうなら『鳳凰伝』『スサノオ』の民たち)があってさえ、どこか不合理感を覚えたコロスの多用は、この『明智~』にいたってはほとんど罪悪である。

0702hanakuro7
↑クリックすると拡大写真を表示

 今回の脚本の改訂は木村信司的「テーマ変換」として認め、またその演出力は、甲斐正人のスケール感のある音楽、太田創のレトロな美術などを含めて、フェイクな面白さがあるし、独自の世界観を貫いていることは評価したい。それでもなお、この安易な出演者のコロス化だけは、木村作品の今後の展開のためにも、一考を、と問いかけたいのだ。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)

(⇒ショー「タキシード・ジャズ」レビューへと続きます。)

-----------------------
◆宝塚歌劇花組公演◆
グランド・ロマンス『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴(トカゲ)』~江戸川乱歩作「黒蜥蜴」より~

脚本・演出:木村信司期間・場所:
 2007年2月9日(金)~3月19日(月) 宝塚大劇場
 2007年4月6日(金)~5月13日(日) 東京宝塚劇場

※⇒公演の詳しい情報は宝塚歌劇団HP公演案内ページでご確認ください。

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2007/02/26 16:27:18 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/165303/14055343

この記事へのトラックバック一覧です: 乱歩作品にふさわしい春野“危険”な匂い『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴』: