榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
荻田+春野寿美礼の“男役の美学とスパイス”が隠し味『TUXEDO JAZZ』
花組宝塚大劇場公演初日(2月9日)
『TUXEDO JAZZ(タキシード ジャズ)』
(⇒レビュー『明智小五郎の事件簿』より続く)
2本立ての場合、ショーが必ずしも芝居と連動して作られるものではないが、直前にあった芝居の欠落部分が補われていると、結果としてその観劇は心地よいものに仕上がる。
その意味で、荻田浩一のショーは、出演者一人一人への目配りが行き届いていて、花組のスター、職人的存在、若手たちなど、それぞれ活躍の場が用意されているのが嬉しい。
花組は荻田演出のショーは初めてである。
もともと男役の黒エンビやタキシードが似合うのが花組、そのトラディショナルな組カラーを意識してか、荻田作品にありがちなアンダーな部分や毒はかなり薄めてある。
また、コンセプトは「古き良きブロードウェイ、華麗なるフォーリーズ、絢爛たるジャズとマンハッタンの煌き、ハイソな時代のアメリカ」ということだが、実際にはもっと生活のリズムに近いカジュアルな感覚で運ばれていく。
マンハッタンの賑わい風なイントロから、場面タイトル順には「街角」「アンタッチャブル」「仕立て屋の恋」「アステア」「フォーリーズ」「ナイト・ジャズ」と流れていき、「フィナーレ」になるのだが、その場面から場面へのつながりはすべてかぶっていくのが荻田流、カーテン前や暗転というわかりやすい区切りをしないのはいつも通りだ。その流れが、初めての観客によっては戸惑う人もあるだろう。
とくに今回は、荻田世界に共通のストーリーの陰ナビとでもいうようなキャラがないぶん、流れをどの位置から見ればいいのか、つかみにくさがあるだろう。多くの観客は主演の春野寿美礼に導かれてショーを楽しむことになるが、表の主役が十分でも裏キャラがあるからこその楽しさという荻田ファンには、やや物足りなさが残るかもしれない。それでも、第二次大戦前後のスタンダード・ジャズをメインに、陽気に大人っぽく、洒落た雰囲気で終始する仕上がりは、ショーの水準としては上々だし、たくさんのジャズの名曲を楽しめるのは嬉しい。
主演の春野寿美礼は、『マラケシュ・紅の墓標』で荻田作品との相性のよさを示していたが、このショーも、その魅力をうまく生かされている。とくにオープニングの窓から出てくるところや、ボロボロなスーツで現れる「仕立て屋の恋」あたりの軽さは、春野の洒脱な存在感を生かしている。また矢代鴻との掛け合いをはじめ、ジャズ満載のショーでは、豊かな歌唱力はなんといっても大きな武器だ。
桜乃彩音のよさは、クラシックな容姿がアメリカン・ゴージャスとうまく重なることだろう。パニエの入ったカクテルドレスやジョーゼットのタイトドレスがよく似合って、そこには青年たちの夢みる豊かなアメリカの女神像が浮かび上がるのだ。今回も、ダンスは安心だが歌唱の充実という課題は残るものの、主演娘役に欠かせない華やかさでショーを彩っている。
真飛聖は、「アンタッチャブル」の黒っぽさが印象として強いが、男役群舞では中心を占める存在としてフィーチュアされている。真飛の面白いところは、春野に対しては大人な部分が、また壮一帆や愛音羽麗と一緒だと若さが、それぞれ色濃くなることだろう。この色の変化をシーンごとの個性として意識していくと面白いかもしれない。
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壮一帆はオープニングに帰京者として現れ、これは荻田からの組替えにひっかけたご祝儀で観客の視線をさそうが、基本的には愛音羽麗や未涼亜希とトリオで登場、華のある容姿と伸びのある声で楽しませてくれる。同じポジジョンで出てくることの多い愛音羽麗は、ナイト・ジャズでは幻想の女として、その美しい女っぷりが印象的。また未涼亜希は、今回は銀橋でのソロもあり、歌手としての力を改めて感じさせてくれた。
ダンサーの高翔みず希や鈴懸三由岐、舞城のどか、花野じゅりあなどの活躍や、若手男役の華形ひかる、真野すがた、望月理世、朝夏まなと、また若手娘役の華耀きらり、華月由舞、野々すみ花などをはじめとする新鮮な顔が、場面によっては粒だって浮かび上がる。真野、扇めぐむ、朝夏まなとという若手男役3人に脚を出させるのも、荻田ショーではよく見かける色っぽさ。そして荻田作品の常連、専科からの矢代鴻の歌唱力は、春野との粋なデュエットをはじめ、今回も大きな力になっている。
全体としてのイメージは、宝塚スタンダード、そこに荻田+春野寿美礼ならではの“男役の美学とスパイスの効いた笑い”を隠し味にしているという感じのこのショー。まだまだ深読みも含めて、いろいろな楽しさが隠されているような気がしている。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
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◆宝塚歌劇花組公演◆
ショー『TUXEDO JAZZ(タキシード ジャズ)』
作・演出:荻田浩一
期間・場所:
2007年2月9日(金)~3月19日(月) 宝塚大劇場
2007年4月6日(金)~5月13日(日) 東京宝塚劇場
※⇒公演の詳しい情報は宝塚歌劇団HP公演案内ページでご確認ください。
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/02/26 18:11:00 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (1)
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第1場 プロローグ
●まあくん先頭 上手から銀橋へ アメリカンボーイ
華形 真野 望月 朝夏 (真ん中かわいい一花ちゃん)
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● ・ 一花 ・ ・
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キャプガールたちが上手、下手花道からでてきて5人を囲む
わーーと出てきて わーーっとさっていく
壮 上手から... 続きを読む
受信: 2007/03/04 1:58:52